劇場公開日 2022年10月28日

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天間荘の三姉妹 : インタビュー

2022年10月26日更新

のん、あの世とこの世の狭間に飛び込んで――“三姉妹”の日々を振り返る

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「スカイハイ」「SIDOOH―士道―」「JUMBO MAX」で知られる漫画家・高橋ツトム氏(※「高」の正式表記は、はしごだか)と、ハリウッドを拠点にして活躍する映画監督・北村龍平。かねてから親交の深い盟友2人が生み出したのは、あの世とこの世の間にある老舗旅館を舞台にしたヒューマンファンタジー。そんな唯一無二の世界にヒロインとして飛び込んだのんが、撮影秘話をたっぷりと語ってくれた。

映画「天間荘の三姉妹」は、「スカイハイ」のスピンオフ作品を実写映画化した作品。天界と地上の間にある三ツ瀬という町の老舗旅館「天間荘」を舞台に、人間の生と死、魂、家族や近しい人たちとのつながりをテーマにしたストーリーが展開していく。

物語の軸をなすのは“三姉妹”だ。天間荘の若女将として働く長女・のぞみ、水族館でイルカのトレーナーをしている次女・かなえ、そして、「天界に逝くか、もう一度現世で生き直すか」という選択に悩みながら、天間荘で働き始める三女・たまえ。のぞみ役の大島優子、かなえ役の門脇麦と初共演を果たしたのんが、天真爛漫さと孤独感が同居するたまえを演じ切っている。

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本作の情報が初めて明かされた際、のんはこんなコメントを寄せている。

「『天間荘の三姉妹』の原作を読ませていただいた時、とても感銘を受けました。一瞬で奪われてしまった命。残された人達はどう受け止めれば良いのか、まだ終わっていないのです。原作に込められたメッセージは、ファンタジーの世界として描かれているからこそ強く届くものだと感じ、参加したい、と決めました」

その発言を補足するように、改めてオファーを受けた理由を明かしてくれた。

「『唐突に失われてしまった命の行方を考える』という設定がすごく魅力的だなと思いました。これまで遺された人たちの悲しみに寄り添うことはありましたが、亡くなってしまった方々が“どう考えているのか”という点には思いを馳せたことがなかったんです。亡くなられた方たちの視点で、物語が語られていき、それをファンタジーとして表現する。こんな物語の形があったのかと思いました。命を失った人たちを癒す場所が必要だと思った――そんなことが語られるシーンがとても好きで、その言葉に納得したんです」

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たまえというキャラクターは、高橋氏が原作を描き上げる際にのんをイメージしている。その理由は「シリアスな題材だからこそ、それを感じさせないのんのキャラクター性が必要だと感じた」(高橋氏)というもの。この点について問いかけると、のんは「私、自分の持っている才能、自分の演技がすごく好きなんです」と口火を切った。

「だから『それを守りたい』という意識がとても強いんです。自分の才能を死なせないために、自分の選んだ道を突き進んでいます。たまえちゃんとまるっきり同じかというと、そうではないかもしれません。ただ、下手くそでも、実力がなくても、そういうところを気にせず、物事に一生懸命向かっていく。知らない人にも意見をしてしまう。そういう垣根のない部分にはとても共感しています」

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準備段階の脚本では「たまえはこういう子じゃないと思います」と意見をすることもあったそうだ。

「原作で描かれているはつらつとしたイメージ。何事にも立ち向かっていくがむしゃらさ。たまえちゃんは、そういうパワーを持った子だと思っていたんです。もちろん傷ついている部分はありますし、不器用で挫けてしまうような時もありますが、それでも立ち向かっていく。そんな無鉄砲な部分が良いところだと思って、役を引き受けました。でも、初期の脚本では、とても弱々しい印象を受けたんです。泣き虫で弱虫で、受け身の印象。『もっと原作に近づけたい』という思いで、お話をさせていただきました」

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大島と門脇とは“三姉妹”として多くの時間を共有した。「お2人ともとても気さくで、面白くて。自然な感じでお話してくれました」と振り返る。

「大島さんからは“長女の包容力”というものを感じましたし、門脇さんはたまえが憧れる“自由奔放さ”を表現されていました。お2人のことが大好きになったんです。撮影の合間にお話をしてくれたのも、すごく嬉しかったです。大島さんは『ハロウィン、どうする?』と話しかけてくれて。私も大島さんも、仮装をしたりして“ハロウィンを楽しむ派”だったんです。ちょうど北海道での撮影タイミングだったんですが、大島さん、ハロウィン用のカチューシャを買ってきてくれたんです。皆でそれをつけて、撮影のテストをやったり、記念写真を撮ったりしていました(笑)」

天間荘の大女将であり“三姉妹”の母である恵子役の寺島しのぶ、気難しい宿泊客・財前玲子役の三田佳子といった大ベテランとのひとときも、忘れ難い思い出となった。

「寺島さんはとても明るくて楽しい方で、演技への集中力が印象的でした。控え室では面白い話をしてくださって……格好良くて素敵といったイメージなんです。恵子さんは強くて荒っぽい部分と、繊細で可愛らしい一面があると思うんです。寺島さんが演じられることで、そういう面が、原作よりも浮き彫りになっていると思いました。寺島さんだけの解釈、演技が素適なんです。三田さんとはご一緒できること自体が嬉しくて、とても興奮していました。カメラの前に立って、その役を演じるということ。“役者の力”というものを目の当たりにしました。大先輩ではありますが、とても可愛らしい表現をされるんです。きゅんとしてしまうような、人の心に食い込んでいくような魅力がありました」

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テーマのひとつになっているのは“家族”。では、のんにとって“家族”とは、どのような存在なのだろう。

「私にとっては、自分を無条件で肯定してくれる安心感があります。上京する時もちゃんと送り出してくれましたし、今も応援してくれています。家族だからこその“甘え”というものが嫌な時もあるんですが……やっぱり安心できますよね。家族がいるからこそ、自分の力というものが湧くのかもしれません。たとえ失敗しても受け止めてくれるので、物事にリラックスして立ち向かうことができる。そんな存在になっているんだと思います」

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世界はこんなに大変だけど、世界はそんなに悪くない――天間荘にやってきたたまえは、母や姉たち、宿泊客、三ツ瀬の住人たちと交流しながら、そんな思いを実感していく。その言葉について対話を続けるなかで、のんは「私、あまり挫けたことがないんです。もうダメだと感じたこともないかもしれません」と明かしてくれた。では「落ち込むことは?」と問いかけると、こんな答えが返ってきた。

「例えば、憧れていた人に変な態度をとってしまったことで落ち込んだりすることがありますね。憧れの人に出会うと、すぐに浮かれてしまって、変な感じになってしまうんです。(対面が終わった後)周囲の人たちには『こうすればよかったかな?』『大丈夫だったかな?』としつこいくらいに聞いています(笑)。寝たり、食べたり――そういうことできっぱり忘れる。それと映画を見て、自分とリンクするようなシチュエーションを見つけたりします。キャラクターのダメダメな部分を見て『この人だってこんなにダメなんだから、自分もきっと大丈夫だ!』と感じたり。そうすることで“上手くできなくてもいいんだ”と自分を勇気付けます」

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ついに観客のもとへと旅立っていく「天間荘の三姉妹」。のんは“願い”を込めて、作品を送り出そうとしている。

「今の世の中、色々なことが次から次へと起きていて、思わず心を閉ざしてしまいたくなるようなことばかりです。そんななかでも“大切な人が自分のことを思ってくれている”。そう感じることができれば、頑張れるのかもしれません。止まっていた時間が動き出す――そんな希望や、元気を届けられるような作品になっていってくれたらと思っています」

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