「SNS社会で“ファクト”と“フェイク”の狭間を目撃する。」ナワリヌイ 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
SNS社会で“ファクト”と“フェイク”の狭間を目撃する。
ロシアがソ連と化して久しい。いつその変節が訪れたのかはプーチンの論文を当たるに越したことはないのだろうが、今はその時間がない。反体制の急先鋒であるナリヌワイと家族に密着したCNNのドキュメンタリーを観ていると、現在のウクライナのリーダー、ゼレンスキーと同様に、紙一重の危うさを覚える。
SNSの急速な浸透によって、誰もが発信者となり、メディア的な存在になることが容易くなった。プロとアマの境界線は曖昧になり、フォロワー数によってその存在価値も定められる。
2022年7月28日時点の著名な政治家、機関のTwitterフォロワー数は下記の通り。
バイデン 3,492.7万 フォロワー
*マーヴェル 1,548.5万 フォロワー
ホワイトハウス 732.4万 フォロワー
*トム・クルーズ 695.4万 フォロワー
ゼレンスキー 642.5万 フォロワー
ロシア大統領府 360.3万 フォロワー
ナリヌワイ 296.8万 フォロワー
NATO 151万 フォロワー
*は映画関連の指標として参照されたし
圧倒的な数の信奉者(フォロワー)に向かって放たれるメッセージはどこか偏っているのではないか。そんな疑問符が浮かぶ。ドナルド・トランプがそうであったように、“ファクト”と“フェイク”の狭間にある思惑が透けて見えてくるような気がしてならないのだ。
ドキュメンタリー『ナリヌワイ』は断然面白い。世界中の誰もが知る毒殺未遂事件、まさにクレムリンの陰謀を予知したかのような事件前後の密着映像がもたらすスリリングな映像は緊張感に満ちて片時も目が離せない。全世界がことの成り行きを見つめた劇場型犯罪であるだけに、その裏側で何が行われていたかを“目撃”することでボルテージは上がりっぱなしになる。
そして、本編を観終わった時には、紛れもなく彼は孤高のヒーローとして眼前にあり、帰国後の収監からいつ解放され、再び野に降りたつ日を待ちわびる気分に満たされるのだ。
だが、急いではならない。得体の知れない高揚感に包まれたときこそ、心の片隅にある疑問符を無視してはならないと自戒させられる作品でもある。表があれば裏があり、決して撮(うつ)されることのないこともあるはずだから…。