「公務員は指導者ではなく奉仕者である」ナワリヌイ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
公務員は指導者ではなく奉仕者である
ロバート・ラドラムやトム・クランシーのスパイ小説を読むと、ソ連は恐ろしい国だったというイメージである。KGBやGRUがどれほど容赦のない暴力的な組織であったかが事細かに描かれていて、西側のスパイに協力するソ連の小役人の恐怖の日々を我がことのように感じた。
しかしソ連崩壊後のロシアは、ゴルバチョフによる情報公開や自由化の流れで、規則でがんじがらめの社会主義国から、金儲け優先のギャング国家になったように感じた。ロシア人女性は若い頃はとても美しくて、国際結婚をした日本人男性が知り合いに何人かいた。恐ろしいソビエト連邦が開発途上国ロシアに変わった感じだった。
ところが元スパイであるプーチンのせいで、ロシアが再びソ連に戻りつつある。せっかくゴルバチョフが民主化への道筋を引いたのに、陰謀論者が国を牛耳ると、こんなふうに疑心暗鬼の国に逆戻りしてしまうのかと、再びスパイ小説で味わった恐怖が蘇る。
その恐怖をものともしないナワリヌイ氏とその家族の精神的な強さには恐れ入った。プーチンは役人や警察官に一定の権限を与える。それは役人や警察官にとって国家権力の行使そのものである。無防備の国民を弾圧しても罰せられないとわかれば、人間はどこまでも残虐になれるのだ。
日本国民の我々が注意しなければならないのは、プーチンと親しいアベシンゾーは、プーチンと同じ精神性の持ち主だということだ。「ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ている」と言ったのは脳足りんのお調子者の発言だとばかりは決めつけられない。ふたりとも国家主義者だし、不勉強な陰謀論者である。
何より恐ろしいのは、国会で100回以上も嘘を吐いた男が、未だに逮捕もされず、それどころか現政権に意見まで言っている状況と、それを許している国民だ。アベシンゾーとその一派がプーチンのような恐怖政治の実現を望んでいるのは間違いない。それが「同じ未来」だ。マスコミと検察を操作して圧力をかける。頭を押さえつけられたNHKは、いまや大本営発表に堕してしまった。
ひとたび国家主義に捉えられてしまうと、指導層にいる人間たちは全能感に酔いしれる。部活の後輩みたいに何でも言うことを聞かせられると勘違いする。だから言うことを聞かない人間がいると激怒する。
しかし部活に入るのは、学校生活を充実させるためだったはずだ。部活のために学校生活を台無しにしたのでは、本末転倒である。国と国民の関係も同じで、国民のために国があるのであって、国のために国民があるのではない。国民は部活の後輩ではないし、政治家は先輩でもない。
日本国憲法に書いてある通り、政治家を含む公務員は、指導者ではなく奉仕者である。それを勘違いするとプーチンみたいな化け物が生まれる。そして世界はいま、確実に化け物が増えつつある。個人が自由と権利のために戦い続けなければ、あっという間に前世紀に逆戻りだ。本作品はその警告でもあるように思えた。