「もしかして、吉田くん?」#マンホール といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
もしかして、吉田くん?
映画好きの中で結構話題になっていた作品。映画館では鑑賞できなかったので、サブスク解禁された今のタイミングで遅ればせながらの鑑賞です。「マンホールの中に落ちてしまった男がSNSを使って助けを求める」というざっくりした内容だけは知っている状態でした。
結論ですが……私には合わなかった。
本作は基本的にマンホールの穴の中だけで繰り広げられるという、いわゆるソリッドシチュエーション作品です。このジャンルは『SAW』『パラノーマルアクティビティ』などの大ヒット作品がある一方で、個人的にはめちゃくちゃにハズレ作品が多いという印象があります。よっぽど上手い構成や脚本を作らないと苦痛を感じるほどつまらない映画になります。
本作はそれら有象無象のソリッドシチュエーション映画の中ではかなり頑張っている方でした。「マンホールの中に落ちる」「どうやら何者かに連れ去られたらしい」「主人公にも何か秘密がある」など、観客の興味を持続させる展開が矢継ぎ早に繰り広げられ、終盤までは結構手に汗握る展開でした。
しかし、一番大事な事件の真相が発覚するラストシーンは正直「ガッカリ」の一言です。犯人の正体が分かったところで「誰やねんお前」ですし、その後に続く展開も「何これ?」ってなります。とにかく終盤の展開が酷くて、中盤あたりまでの盛り上がりと俺があれこれ推理していた時間を返せと言いたくなりました。
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結婚式を翌日に控えた川村俊介(中嶋裕翔)は、職場の同僚たちからの結婚祝いのサプライズパーティに参加し、ほろ酔い状態で帰路についていた。その道中、川村はいつの間にやら意識を失っていて、目が覚めると深い穴の底に倒れていた。どうやら帰宅中に工事現場か何かの穴に落ちてしまったようだ。足を怪我して自力での脱出が出来ない状態の川村は、携帯で何とか助けを呼ぼうと奮闘する。
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シチュエーションはかなり面白いんですよ。謎の穴の中に閉じ込められた男がSNSという集合知を利用して脱出を試みるという展開は、今までありそうでなかったストーリーですよね。使い古されたソリッドシチュエーション映画に新しいエッセンスを加えていて新鮮味があります。序盤の怒涛の展開が本当に良くて、話の転がし方やストーリー構成やオチの展開次第では大傑作になりうるポテンシャルがあったように思います。
ただ本作、残念ながら話の転がし方は良かったけど構成だったり一番重要なオチがなんとも貧弱なんですよね。酔っぱらってマンホールに落ちてしまったのかと思いきや、飲んでた場所とは大きく離れた場所であることが判明し、どうやら何者かに連れ去られたのだと発覚します。誰もが今まで登場してきたキャラクターの中に犯人がいるのだと考えると思いますが、本作は最後にだけ登場するポッと出の女が犯人です。終盤に突然出てきて「お前が犯人だったのか」とか言われても……。例えば回想シーンの中でもいいから登場するとか、話の中にでもいいから印象的に登場するキャラクターであったならば納得感はありますが、ダメなミステリー作品の典型例みたいなオチでしたね。
主人公の川村が実は高校時代の同級生である吉田がなりすました姿だった…とか、突拍子も無くて笑えもしません。劇中に伏線ありましたか?私は分かりませんでしたよ。そして吉田が高校時代に川村の恋人だった折原奈津美が犯人だと断定した根拠も薄く、そして折原がどういう経緯で吉田が犯人だと見抜き、川村の遺体の場所を特定したのかが全く分からない。
「なんでそうなるの?」「なんでそう考えるの?」が繰り返される終盤の展開は観てられないほどに酷くて正直苦痛でした。中盤までのドキドキを返してほしい。
日陰者だった吉田がクラスの人気者の川村を殺害する際、川村が久々に会ったはずの吉田に対して「もしかして、吉田君?」と声を掛けたのが印象的でした。影が薄くて誰にも相手にしてもらえなかったのが悩みだった吉田のことをしっかり川村は覚えていたんですよね。それなのに吉田は凶行を止められなかった。印象的なシーンでした。