「テンポのよいワンシチュエーションスリラー」#マンホール おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
テンポのよいワンシチュエーションスリラー
先週観た「FALL フォール」に続き、またもやワンシチュエーションスリラー。今度は、マンホール落下からの脱出を描くという作品です。テンポよくコンパクトにまとめられており、それなりに楽しむことができました。
ストーリーは、社長令嬢との結婚式前夜に同僚が開いてくれた祝いの宴席で酩酊し、帰り道でマンホールに落下したハイスペック男子の川村俊介が、SNSを頼りに救出を求めて苦闘する中で、その裏にある隠された真実が明らかになっていくというもの。
「FALL フォール」の地上600mの鉄塔と比べてはいけませんが、深さ10m程度のマンホールの方が絶望感はかなり低いです。それでもテンポのよい展開で飽きさせません。開幕早々に落下し、あとはひたすらそこからの脱出を試みるというワンシチュエーションで、そこに危機感を煽る状況を追加しつつ、裏側に仕組まれた真相を推理させるという流れは悪くないです。
本作では、知人への電話が繋がらず、警察にも信用してもらえず、GPSも誤作動を起こしているという状況の中、SNSを巧みに利用して救出を求めるあたりが今時でナイスです。川村は、ネットで拾ったアイドル写真を加工し、女性になりすまし、言葉巧みにネット民を誘導します。この時点では「頭のいい男だな」としか思っていなかったのですが、後で思えばこれも伏線だったのかもしれません。
ネタバレ厳禁なので多くは語れませんが、観客の興味はしだいに脱出よりこの事態を招いた真相へと移っていきます。ラストは衝撃とまではいきませんが、それなりにおもしろい展開でした。とはいえ、伏線なしで明かされる真相には、釈然としないものが残ります。また、冷静に考えると、それならなんでこんなことを…、もっとこうしたら…、いやいや最初から…などとツッコミも一気に湧き上がってきます。ラストも、最後の決着の様子を描かないので、後味もイマイチ悪いままです。
主演は中島裕翔くんで、ほとんどのシーンを彼一人で見事に演じきっています。他のキャストに奈緒さん、永山絢斗さんらが名を連ねますが、ネタバレになるといけないので触れないでおきます。今回は上映前に舞台挨拶ライブビューイングがありましたが、ここにも中島裕翔くんと熊切和嘉監督しか登壇しませんでした。二人しか登壇しないのは寂しかったですが、作品の性質上しかたないですね。それでも楽しい話が聞けたので満足です。撮影裏話としては、コーヒーや青海苔を混ぜて表現した泡のシーンは臭いも準備もかなり大変だったらしいです。しかも、満足のいく映像が撮れず、後日まさかの撮り直しをしたそうです。でも、実際の映像はわりときれいで泡風呂のようでしたけどね。