「渋い、シブいぜ…!」神々の山嶺(いただき) ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
渋い、シブいぜ…!
なんと静かでシブい映画か!
偏見入ってるかもだけど、これがフランスで製作されたのかと驚き。
多くを語らない羽生さんの悲哀と登山家としての姿勢がとても良かった。
私は登山しない人間なので、なぜ登山家が命をかけて苦しい思いをしながら山に登るのか、これまで全く理解できなかったのだけど、本作を観て、ほんの少しだけわかった気がする。
「そこに山があるから」という答えは一つの真理で、人は「自分にできるかもしれない」と思うとそれをせずにはいられないのだ。
そして突き詰めるとそこに他人にどう思われるとかは関係なくて自分がそうしたい、せずにはいられないからするのだ。
最終的に羽生さんが誰に認められるためでもなく、エベレストに登り続けたように。
私も自分が山に登れて知識もノウハウもあったら最終的にエベレスト登りたくなるかもしれない、とすら思った(おそらく無理だけど)。
登山家は究極の求道者なのかもしれない。
あと本作は本当に羽生さんたちと一緒に山に登っているような錯覚を起こすほどリアルな描き方をしてるんだけど、山に登っているときは命を繋ぐことが第一になるんだな、と実感した。
そこでは人間関係のいざこざとか、自分の過去とか未来とか、おそらく性欲すら瑣末なことになる。
私たちは普段複雑に色んなことを考えたり、色んな肉体の欲望に振り回されているけれど、極限状況下(特に自然相手)の中では命を繋いで前に進むことが最優先事項になる。孤独ならなおさらだ。そこでは私たちを縛る法律すらも意味をなさなくなる。
とてもシンプルだ。
それって普段この社会の中ではあまりない感覚で、それも山登りの魅力の一つなのかなあと思った。
山好きな人が、わたしみたいな山を知らない人に「なぜ山に登るの?」と聞かれたら本作をすっと差し出して「これ観ればわかるよ」と言えば良いと思う。
そんな説得力のある作品だった。
ラスト、羽生さんはエベレスト下山中に亡くなるけれど、全然哀しみはない。
そこを描く作品ではないからだ。
羽生さんを待たずに比較的淡々と下山する2人が、登山家を、そして羽生さんが求めていたものを理解していることに痺れた。
しかしシブいぜ…!!