「演出とカナダの変化」C.R.A.Z.Y. つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
演出とカナダの変化
雑誌の各国大使館に聞いたベストムービーで、カナダは本作をあげていた。まあ、分かる。確実にいい作品だった。
日本だったら「七人の侍」ということになるかと思うがそれは、侍という文化的なものが内包されているから。そういった意味で、おそらく本作にはカナダらしさ、もしくはケベックらしさが出ているのだと思う。
一番の見所はカメラワーク、もしくは演出ということになってしまうだろうか。
なので、内容だけで映画を評価する人には向かないかもしれない。その辺は少し残念だ。
この作品は青春映画である。日本の青春映画の場合、恋愛ものか、もしくは何かに打ち込む部活頑張る系がほとんどだろう。
しかし海外の場合、若い時間にどのように過ごしたのかという作品になる。そしてそこからの変化。
ゲイが完全にタブーであった時代にゲイとして生きる青年の物語で、主人公自身がまだゲイであるとハッキリ意識していないかもしれない微妙さも含め、本人及び周りの人間の空気感が絶妙だ。
わずかではあるものの、作中で同性愛に対する態度が変化している。それはもちろん、主人公本人の意識も含まれる。
主人公は次男と折り合いが悪いとされているが、作中で最も関わりが深い兄弟が次男だ。
お金のやり取りはあったものの、学校に助けに来てくれるし、何より主人公のアイデンティティを結構受け入れている節がある。
人それぞれ好きにしたらいいんじゃない?という態度なのだ。
型にハマって、逸脱しているもの(同性愛とか)を認めないという時代にあって、自分らしく生きるということを体現していた人と取ることができる。
次男本人は逸脱しすぎてメチャクチャではあったが、他人に過度に干渉しないという点においては先進的であったとも言える。
主人公の成長ののち、好きに振る舞った結果が限定版レコードとの出会いであり、父親に干渉しようとして意図的にレコードを割ったわけではないと分かるラストはなんだか滑稽で良かった。
主人公の変化、そして家族の変化、それらはカナダという国の変化でもある。
ある意味でカナダの歴史なのかもしれない。
