劇場公開日 2022年7月29日

  • 予告編を見る

「2005年製作のカナダ映画。当時の日本未公開が惜しまれる」C.R.A.Z.Y. 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.52005年製作のカナダ映画。当時の日本未公開が惜しまれる

2022年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

カナダ・ケベック州出身のジャン=マルク・バレ監督は、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(2009)、「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013)などで知られ、「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」(2015)を発表したのを最後に、2021年12月25日に58歳で亡くなった(自殺説もあったが、心臓発作による自然死だったとされる)。“12月25日”で事後的に奇縁ができてしまった本作は、バレ監督が2005年に手がけ、トロント国際映画祭で上映されるなど国際的に高く評価されるきっかけになった青春ドラマだ。

主人公は、ケベックで暮らすボーリュー家の4男として1959年のクリスマスの日に誕生したザック。ちなみに全員男の兄弟5人(クリスチャン、レイモン、アントワーヌ、ザック、イヴァン)の頭文字を並べると「C.R.A.Z.Y.」になる。映画はザックの成長を追いつつ、性的アイデンティティに揺れる思春期の悩みと、男らしさを強いる父親との確執を中心に綴っていく。時期としては1960年代後半、70年代半ば、80年代前半が主なパートになっていて、ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」、デヴィッド・ボウイの「スペイス・オディティ」、ピンク・フロイドの「虚空のスキャット」といった往年の名曲が時代の雰囲気を醸し出す。

バレ監督の死を惜しみ、追悼の意を込めての日本劇場公開となったのかどうか定かではないが、17年前であればLGBTQの要素は今以上にインパクトを持ちえただろうし、2001年の米国同時多発テロから4年後のタイミングで、古き良き時代を懐かしむ要素も歓迎されたのだろう。だが2022年の今、長引くコロナ禍に疲弊し、ロシア・ウクライナ戦争などの影響で経済的にも心理的にも落ち込みを増している日本で、果たして多くの観客に受け入れられるのかどうか。若干の間の悪さを感じないわけにはいかない。

高森 郁哉