イカした人生
解説
「EUフィルムデーズ2022」(22年5月28日~6月23日=国立映画アーカイブ/6月21日~7月18日=京都府京都文化博物館/8月23日~8月31日=広島市映像文化ライブラリー)上映作品。
2020年製作/87分/ベルギー
原題または英題:Une vie demente
スタッフ・キャスト
- 監督
- アン・シロ
- ラファエル・バルボニ
「EUフィルムデーズ2022」(22年5月28日~6月23日=国立映画アーカイブ/6月21日~7月18日=京都府京都文化博物館/8月23日~8月31日=広島市映像文化ライブラリー)上映作品。
2020年製作/87分/ベルギー
原題または英題:Une vie demente
■そろそろ子供が欲しい30代カップルのアレックスとノエミ。
ところが、アレックスの母親・スザンヌにおかしな行動が目立つように。
スザンヌは認知症という病気にかかっており、子供に戻ってしまったような母親に手を焼くノエミとアレックスだったが…
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・認知症をテーマとした作品は、どうしても重くなりがちだが、この作品にはどこか突き抜けた明るさがある。
それは、認知症になったスザンヌの子供の様な行動が、どこかコミカルに描かれているからではないかと思う。
■劇中、頻繁に出てくる紙のようなモノが、水のような溶液の中で溶けて行く暗喩的なシーンも効果的である。
・スザンヌは、本人も気付かないうちに大借金をしているのに、真っ赤な車を購入していたり、彼女を介護するケヴィンが紹介するヴィバルディ・メタルヴァージョンを好んだり(あれは、格好良い。欲しい。)認知症なのに、人として崩れていないのである。
ー スザンヌが、キャリアウーマンだったからだろうか・・。-
<アレックスとノエミ、そして介護するケヴィンのスザンヌに対する接し方も良い。
スザンヌをキチンと”人”として扱っているからである。
”施設に入れるより彼女は恵まれている”というケヴィンの言葉は尊い。
そして、アレックスとノエミの間に出来た赤ちゃんと、認知症が進んで赤子の様になったスザンヌが家の庭のテーブルで食卓を囲むラストシーンも、印象的な作品である。>
妊活中の夫婦の夫の母親が認知症になり、だんだんと全員の生活が乱れ乱されていくようになりそして…という、モチーフとしてはもはや目新しくもない。でもこの作品を際立たせているのは、そんな重苦しいテーマを扱いながら、撤退してヴィジュアルにこだわっていること。
ポスターに使われているショットは、まんま映画の中に出てくる夫婦の寝室。壁紙もシーツもピロケースもパジャマも森の中を思わせる柄で統一されている。
他にも画面に出てこない第三者とのインタビューに答える彼らの衣装と背景とのコーディネイションなども素敵。病んだ母親はギャラリーを経営するキュレーターで、素晴らしい現代アートを扱っている。
だから、そんな母親が病んでいくそのありようが…もちろん今や認知症介護は、患者の意思を尊重する方向に進んではいるのだけれど、彼女が病んでいなかったとしたら、自分のあの姿を見てどう思うのだろう。
意図的に衣装の柄を合わせた演出が洒落ている反面、夫婦の寝室の統一感は寝巻きからブックカバーなどやり過ぎ感が否めない!?
悲観的で暗くなるテーマ性と物語が現実を突き付けられながらも最後まで心地良く観られるのは、コメディとシリアスを混ぜてゼロにしたような人間ドラマとして深刻さをワザとらしく描かない、感動を煽らない、そこに好感が持てる。
フランスとかアメリカでリメイクしたら話題になりそうな本作、母親はイザベル・ユペールで奥さんはジェシカ・チャステインが演じたら合いそうな気が?
現実を受け入れながら未来に希望を持ち、今を楽しもうとしているノエミが導いた"イカした人生"である、イマイチ邦題が腑に落ちないけれど!?