「映画の人生、自分の人生」帰れない山 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の人生、自分の人生
久々にイタリア映画を見た気がしますが、あまりイタリア映画らしくない(?)重厚で重く深みのある人生の物語でした。
感想が書き難い作品でしたが、何かを書いて残しておきたいとも思える作品だったので、無理矢理ふり絞り書きました(苦笑)
特に今を生きる現代人(都会人)にとっては、馴染みのない思考(世界観)を扱っているので、分からない人には全く理解不能な物語なのかも知れませんが、しかしちょっとでも現在社会に疑問を抱いていたり、田舎生活(大自然との接触が身近にある)の経験あったり、趣味で大自然と触れ合う機会のある人であれば、なんとなく物語の趣旨は掴めると思います。
物語の舞台はタイトル通り“山”ですが、それに捕らわれ過ぎると物語の本質が見え難くなりそうな作品だとも思います。それだけ見事に山の風景が描かれていましたが、ただそれに目を奪われると美しい映画だったという印象しか残らない可能性もあります。
本作は一見『冬の旅』や『イントゥ・ザ・ワイルド』の様な、現在社会に適応出来ない種類の人間の自分の生きる場所探しの作品群だとも思うのだけれど、本作の場合はこの2作の主人公ほど頑なでも他者との接触を拒むわけでもなく、最終的にそうならざる得なかったという感じで、一般的な家族愛も友情も描かれていました。だからこそ決して特殊ではなく、本来そういう種類の人間も少なからずいるのだろうと思える作品でした。
なので、本作は決して自然賛美(美しく崇高で純粋)や都会批判(醜く卑俗で不純)の様な自然と都会の対比ではなく、それぞれの環境依存によるある種の適応障害が描かれていた様に思います。
私の様にあまりにも都会で長く生き続け歳を重ねれば重ねるほど、この様な舞台設定の作品は別世界の出来事過ぎるのだけど、全く正反対の見方をすれば本作の“山の民”でも“都会の民”でも、対局ではあるがそこでしか生活できないという共通点も見つけることが出来ます。
ひょっとしたら、こんな見方で本作を見る人はいないのかも知れませんが(レビューでもあまり見かけない)、当然都会でも孤独や飢えで死ぬことはありますので、本作では山で生まれ山で死んだある男の人生が描かれていましたが、映画で描かれている他者の人生と、それを見る私の人生をどう結び付けるかで映画の見え方は全く違ってくるのでしょうね。
そういった事を、考えさせられた映画でした。