「あなたは何も考えず消費だけする現代人か?または思考する生き物か?」NOPE ノープ デッカー丼さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたは何も考えず消費だけする現代人か?または思考する生き物か?
さすがはコメディアンの顔を持つジョーダンピール。SFホラー的なUFOジャンル映画の側面と、社会派映画としての側面を持たせたビッグバジェットの映画を作ってしまった。
おそらく日々何も考えずテレビを流し見て、YouTubeで話題になるものを見て、過激なものを追う人々は、この映画をなんだかよく分からない、つまらなくて眠いUFO映画としか思わないだろう。
その一方で、社会で何が起きていて、何を見ているのかをきちんと考えて生きている人であれば、これは"エンターテイメント界で蔑ろにされてきた人々の話"という事が分かる。
テーマからして身近で一般的なものではない。ただアジア人としては身近に考えるべき話題である。
物語は二つのプロットで進む。
一つは兄妹の話。歴史上初の映画と言われる黒人騎手の動く馬という実在の映像。その俳優の名は明かされていないものの、彼らはその子孫であり、不審死を遂げた父から継いだ牧場を経営している。経営は、とてもうまくいっているとは言えず、空に潜む何かをカメラに収める事で一躍"時の人"になろうとしている。
もう一つは、アジア人で子役より活躍してきたジュープ。子役時代出演していたシットコムにて、ゴールディというチンパンジーが撮影中大暴れし、そのトラウマを抱えながらも、今はウェスタン風のテーマパークを経営し、彼もまた空に潜む何かをネタに"時の人"になろうとしている。
彼らに共通するのは"時の人"になりたい、注目されたい、主人公になりたいという事。理由は明確で、これまで有色人種はエンターテイメントでは主役になる事は無かった。ハリウッド黎明期では悪役か都合のいい役。ハリウッド黄金時代もいい黒人としてメインパーソンのサポートに回る役柄がほとんどであった。最近ブラックパンサーがほぼ黒人のみで構成された映画であるにも関わらず大ヒットしたのはとても大きな進歩。
アジア人においても、お笑い担当、頭脳担当、モブなど、いつも脇役でイエローモンキーと言われた。
ゴールディのお誕生日会というエピソードで、ゴールディはその自分のポジションに我慢の限界となり、共演者をめっちゃくちゃに叩く。だが同じアジア人であるジュールは襲わず、むしろグータッチしようとするのだ。そして射殺される。これは言わずもがな、チンパンジー=アジア人俳優のメタファーだからである。
こんな過去があったにも関わらず、ジュープは空の捕食者をネタに客を集める。
時に有名になりたい、主人公になりたいという欲望は恐ろしい結末を招く。YouTuberであればやる事がどんどんエスカレートし最悪死に至る事もある。ライターは有名になるために着色し話を持って嘘を書いていると叩かれる事もある。そしてそのエスカレートするトピックスは人々の大好物なのだ。
空の捕食者は言わば政治家や著名人のスキャンダル、事故現場の映像、流失動画、過激なYouTuberを無意識的に追う現代人だ。話題になっているから見る、怖いもの見たさから見る。彼らは恐ろしい音を立て、物凄い速さでネタを食いに来る。瞬く間に。そのスピードと食いっぷりはまさに巨大な捕食者であるため、一見UFOに見えるそれが、恐ろしい捕食者として描かれていた。今作ではそれを動物界のタブーという事で、それの目を見てはならないとしていた。
この映画の素晴らしい点として、社会風刺的な映画でありながら、それを説教的な作りにせず、表向きはジャンル映画としてリリースしている事。まさに空の捕食者の様に、雲に擬態しているのだ。そしてこの風呂敷をどうまとめるんだろうと思いながら見ていたものの、さすがはジョーダンピール、最後は仲間、家族が集う事でちゃんと終わってくれる。それはゲットアウト、アスも同様だった。結局はファミリーが核なのだ。
コメントありがとうございます。そうなんです!分かんないからいいやー感覚的に面白いやつ見よ!っていうのがまさに捕食者なんですよね。見る側も巻き込むあたり凄いです。