劇場公開日 2023年1月20日

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「客寄せマッチョ」ノースマン 導かれし復讐者 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0客寄せマッチョ

2023年1月26日
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今回A24ではなくメジャー・スタジオにおける製作となったため「頭の中にあるイメージをすべてビジュアル化するには至らなかった」とインタビューで語っていた監督のロバート・エガース。7000万ドルというビッグバジェットがついたせいかスタジオから相当な茶々が入ったらしいのだ。「やりたいことができた」と語っていた前作『ライトハウス』と比べると、万人にも分かりやすい非常にポピュラーなリベンジ・アクションに仕上がっていたのは多分そのせいだろう。

中世以前の英国の歴史に並々ならぬ興味があるエガースは、8~11世紀にかけて英国に侵攻しアングロサクソン諸王国をほぼ全滅させたと伝えられるヴァイキングの(300のような)叙事詩を撮る構想があったらしいのだが、出来上がった映画はオルト・ライトがいかにも好みそうなスカンジナビアン“白人至上主義礼賛”ムービー、撮ったご本人もびっくりドンキーで大変なショックを受けたという。エガース作品には欠かせないミューズ、アニャ・テイラー=ジョイの(バックショットの)オールヌードもおそらくスタジオ側の差し金だろう。

『ハムレット』、それをハッピーエンドにやきなおした『ライオン・キング』ベースの物語も、いかにもお偉いさんが考えつきそうな安っぽいアイデアで、『LAMB』のアイスランド人シナリオ担当ショーンと共に練り上げたという本脚本からは、エガース独特のねっとりとからみつくようなおどろおどろしいシークエンスもなりをひそめてしまっている。その代わり、肩をいからせ咆哮をあげるマッチョメンののそのそとしたソードアクションや、ハリー・ポッターに出てくるクイディッチをかなり暴力的にしたようなゲームなどなど、パンピーのご機嫌を伺ったシークエンスがやけに目につくのである。

『ライトハウス』におけるマチズモからホモフォビアへの鮮やかなジャンルシフトも、本作にあってはただ複数のジャンルが混在しているにとどまっており散漫な印象はいかんともしがたい。どんな環境でも傑作を撮れる監督だけが巨匠と呼ばれるんだよと言うは易しだが、今まで小スタジオでしか映画を撮ったことのない駆け出しの映画監督にとっては、行うは難しなことばかりだったのではないだろうか。幸いダークトーンな映像美だけは本作においても健在で、今後「親しい友人への愛(独立系スタジオでこそ発揮できる作家性)」と「敵への憎しみ(大スタジオが求める娯楽性)」を“両立させる”決心をかためたエガースなのだ

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かなり悪いオヤジ