「本気の作品は、本気故に難しい」ぜんぶ、ボクのせい R41さんの映画レビュー(感想・評価)
本気の作品は、本気故に難しい
この作品の考察は難しい。
ユウタが警察で取り調べを受け、「ぜんぶ、ぜんぶボクの所為」と答えたことで、この作品の持つ意味の考察がすべてひっくり返された。
物語は、3人の男女がそれぞれの母に何らかのコンプレックスを抱えている。
主人公ユウタには居場所がない。
面会に来なくなって久しい母。
母への思いが施設からの脱走を決意させる。
川崎から千葉まで行き、小さなアパートに住む母を見つけるが、母の通報によって施設職員が迎えに来る。
男と一緒に暮らす母に、ユウタは、邪魔でしかない。
そして出会ったジョニーの車の中で寝泊まりし始める。
ジョニーという人間と出会ったことで、ユウタは生きていく上で必要な知識を学ぶ。
ジョニーはもう1年も浜辺に車を止めて車中泊しているが、彼は水戸市から、名古屋に住む母に会いに行く途中だった。壊れたエンジン そしてジョニーは夢の中で幼い頃母から受けた折檻のことを見る。
ジョニーにとって母は、心の中で石のように動かなくなってしまった重い「何か」 どこかから認知症の連絡を受け、渋々名古屋に向かったのだろう。車が故障したことを理由に、その場から動けなくなってしまった。
ジョニーが描いた太陽の絵に興味を示したユウタと幼い頃何らかの原因で死んだシオリの母。やがてジョニーは太陽の絵に自分とユウタとシオリの姿を描き足す。それは他人ながらもこの世界で唯一心を通わすことができる家族の姿。
さて、
この作品における地震はいったい何を示すのだろう?
物理的理由で動かなくなってしまった車、直すお金もない。そこで起きた地震は、認知症の母をつぶしたかもしれないという思いが、ジョニーの頭の中でリフレインしている。
彼にとって地震は、タイムリミットのサインだったのかもしれない。彼は焼死するが、そもそも血を吐くほどガンなどの病気に侵されている。
シオリは自宅で姉と料理をしているところに余震が来る。
それに促されるように、シオリは姉に母の病死には別の理由があるのではないかと呟く。
シオリにとってこの地震は事実を知らなければならないという心の奥底にある疑念を言葉にできた象徴だろう。
ユウタにとってこの地震は、母の自宅のニュースで見る。それは、母という人物のイメージと実像との乖離の象徴だったのかもしれない。ユウタは男と同じカップ焼きそばを食べたくない。母を横取りされた怒りがあったが、邪魔だったのは「ボク」だった。母が施設職員を呼んだ。母にとってボクは、もうどうでもいい存在。
母がしてくれたミサンガ 不良たちとのもめごとで切れた。 それを直してくれたシオリ。ミサンガはもう母との思い出ではなく、シオリとの思い出に変わった。母に変わる出会い、気持ちのアップデートだ。
そして、
震源地は名古屋。
その震源地に3人で行こうと提案するユウタだったが、当時シオリにはまだそこまでする勇気はない。彼女はまだ震源地が何を意味するのか自分でもわかっていなかったのだ。
ジョニーが焼死した後、ユウタはもう一度母を訪れるが母は男とSEX中。お互い視線が合うものの、母は無視した。それが答えなのだ。
ユウタは不良連中が放火したのだと思い込んだが、わからない。しかし落書きも放火も仕返しで、最初に爆竹で攻撃したのはユウタだ。
ジョニーの死を悼み、海に入ろうとするユウタを必死で止めるシオリ。
二人で名古屋に行く約束をする。それはシオリが提案した。彼女にとって何が震源地なのか理解したのだ。だからそこに行きたいのだ。
「震源地を確かめたい」
しかし、ユウタにとってすでに震源地の謎は解けていた。
シオリはまだ震源地の謎を特定できていない。これが一人ホームに立つことができた理由なのかもしれない。
警察はユウタが放火したと疑っている。
冒頭の映像。
でもユウタは何もしゃべらず、彼による回想がこの作品だ。
そして最後にユウタは言う。「世の中で起きている悪いことはぜんぶ、ぜんぶボクの所為」
この言葉の意味が解らない。
「どうして僕を産んだの?」「大人になんかなりたくない」「母は、クソヤロー」「…お父さん…」「シオリ」……
ユウタが警察にそう言ったのは、世の中の悪い出来事すべて「ボクが抱えてやる」という意味だったのではないか?
ユウタはジョニーとの暮らしで強くなった。不良グループに一人で挑んでいける。母とも縁を切った。もう恐れるものなど何もない。お前ら警察がボクの犯行を疑うのであればそれでいい。ボクの所為にしろ。ボクはそれさえも抱えて生きていく。生きて見せる。
きっとユウタはそのようなことを言いたかったのだろうと思った。
作品そのものは難しいわけではないが、ユウタという人物像に私自身が感情移入していかなければこの作品の主張は掴めないのだろう。
そこが難しい点だったが、考えさせられる作品は本当に面白いし素晴らしい。