「この映像が残っただけでも意義がある」アルピニスト バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
この映像が残っただけでも意義がある
すごい題名だなって思いました。ズバリ「アルピニスト」。
<アルピニスト=登山家の中でも特に高くて困難を伴う山に挑む、高度な技術を持つスペシャリスト>だそうですが・・・その呼称を題名にするってことは「彼こそが!」って想いがあったのでしょうね。
なぜ山に登るのか?そこに山があるから。登りたいから登る。息をするように、食事をするように、生活の中に登山があるような本作の主人公「マーク・アンドレ・ルクレール」。「フローソロ」という作品でもノーロープのクライミングの目もくらむ恐ろしさと挑む者(アレックス・ホノルド)の理解に苦しむ勇気に呆気を取られましたが、本作はさらに上をいきます。でも、本作はびっくり人間紹介映画ではなく、稀有な登山家のドキュメンタリーです。そして心から登山を愛した一人の若者のかけがえのない記録(になってしまった)です。
「フリーソロ」を見た時の感想と違うんですよね。「フリーソロ」は難関にチャレンジするアスリートのドキュメントって印象でしたが。マークはそれはそれはすごいことを成し遂げておるのですが、無邪気なただ山登り、岩登りが「好き」って気持ちしか見えないのです。(登攀タイムなんか二の次ww)
「わー、あそこから登りたいなぁ、よし登っちゃおう!きっと楽しぞー!」みたいな。小学生の頃、走るのが大好きで大好きでいつも走ってて、運動会では一等ばかりだった友達を思い出しました。劇中ナレーションされてますが、登る姿は美しいです。どこにも力が入っていないようにみえ、スルスルと頂上に引き寄せられるように登っていく様は選ばれた人なんだろなって思うほどでした。映画用で撮影した素材しかないのでその実績に比べ映像は少ないですがインパクト大です。(いるとするならば)山の神様に愛された人なのではないか?と思うほどです。そう、本作はそんな稀有な人物を知る作品なのです。彼が登山に、山に、自然に注いだ愛情を見る作品なのです。後半、失った彼女が語ります。「ハーケンに彼を感じる」と。本作は彼女にとってのハーケン同様に、我々含めた世間の胸にマイケルの存在を忘れさせない作品となったと思います。いい笑顔で登るんだよなぁ。
製作サイドは当初はこういう作品内容にする予定ではなかったはずですよね。いきなり起きた訃報でこのような構成になってしまったんですよね。もし彼が生きていれば、もっともっと厚い内容に
なっていたと思います。残念ながら、作品としても志半ば感があります。仕方ないのですが。
ありきたりですが、神様に愛でられた人は、神様が早くに呼ぶんですね、、、きっと。バイク事故で亡くなったGPライダー阿部ノリックを思い出しました。しかし、ローブ有り、非単独登山で命を落とすなんて・・・皮肉でしかない。 R .I.P.