「全く手を緩めない恐怖と絶望の応酬」女神の継承 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
全く手を緩めない恐怖と絶望の応酬
タイ東北部、山奥のとある小さな村。
この地域にはバヤンという女神への信仰があり、ドキュメンタリーの取材班はこのバヤンの霊媒であるニムという女性に密着取材を始める。
取材を始めて少し経った頃、ニムの姉の娘であるミンが突然別人のように奇行を取り始める。
今までの経験から、ニムはバヤンの代替わりが始まり、その後継者として選ばれたミンが取り憑かれたのだと推測するが、実際にミンに取り憑いていたのは想像を遥かに超える強大な“何か”であった…
ナ・ホンジンプロデュースのタイホラーとあって興味はあったものの、ホラーが苦手なものでなかなか足を運びづらかった本作。
そうこうしていたら、後輩が観たいと言い出したので思い切ってその後輩と観に行くことに。
ただ、その彼もホラーは苦手みたいでビクビクしながら劇場へ。
…
まあ、死にますわそりゃ。
足ガクガク、溜め息しか出ない。その後輩は夜も眠れなかったらしい…
そこまで煽るつもりはないけど、ホラー苦手な人は怖いもの見たさで行くものではない。
確かに物語の構造は非常に『哭声 コクソン』に似ている。
あの後半にかけて地獄へ突き進む感じ。祈祷じゃどうにもならないっていう。
ただ、自分自身『哭声 コクソン』の延長線上の恐怖だと思ってたので完全にやられた。
『哭声 コクソン』似てはいるけどこっちの方が断然ホラーだし、後半は全く容赦のない怒涛のお化け屋敷ホラーなので、超ビビりな者としては生きてる心地がしなかった。
こんなに薄目で観た映画は初めてじゃないかと。
まあフィクションだと割り切れればこちらの勝ちだけど、哭声の時にあった心の余裕が全くない。
印象的、というより衝撃的なカットが多かったのも特筆したい部分。
どうしても後半ばかり記憶に残るが、前半も数分に一回現れる“異質さ”が恐ろしい。
ミンの深夜の職場での淫行やバヤンの首がもげたことに絶叫するニムの姿は強く脳裏に焼き付いている。
若干音に頼り過ぎているとも思ったけれど、アジアの陰湿な雰囲気が画面全体に蔓延っていて素晴らしかった。
鑑賞直後はあまりの衝撃に怖い以外の感想が持てず、評価不能にしようかと思ったが、数日経ってまた恐怖を噛み締めることでジワジワと魅力が体に伝わり始めた。
何かの正体とは一体何だったのか?
そもそもバヤンとは何者なのか?
考えれば考えるほど深まる謎に自分も闇へと堕ちていく錯覚を起こす。
観賞後、後輩から「気付きました?取り憑かれたミンが車に乗せられてる時、本人は無表情なのに窓ガラスに映った顔は笑ってたんですよ。」と言われた。
なんでそんなとこ気づいちゃうのよ。
そういうのが一番怖い、でも物凄く気になる。
多分もう観ない。でももし続編のようなものが公開されるなら観に行ってしまうだろう。
モキュメンタリーホラーの可能性を再確認すると共に、ホラー好きの気持ちが少し分かったような気がした。
〈余談〉
ニム推しです。生きてて欲しかった。
職場でハメてる様子が防犯カメラに映ってるのはどっかの性癖に刺さりました。
いつも通り人の心がないのでワンちゃんの悲劇に関しては特に何も思いませんでした。
なにせ『籠の中の乙女』の猫ちゃんの悲劇でニヤニヤしてた人ですからね。はい。