「少年よ、獅子となれ!」雄獅少年 ライオン少年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
少年よ、獅子となれ!
別に某芸人のネタだからではないが、日本でも“獅子舞”は知られ、晴れの場で披露もされている。
本来は中国の古典芸能。武術、技芸、演劇の要素が合わさった民間芸術。
獅子自体聖獣とされ、中国映画でも時々祭りや祝い事の場で披露されるのを見た事ある。厄払いとして、無病息災や健康長寿を込めて。
南北の流派があり、本作は南派。表現豊かで、雄々しい舞い。
獅子舞と言っても、奥深い。だからこそ映画になる。
でも、ただの獅子舞だよ…? 伝統芸能を伝える芸術映画ならまだしも、それが娯楽映画に成り得るか…?
なったのだ。
本作を構成する王道的要素や目を見張る技術が素晴らしい。
中国のアニメーションだからと言って、侮る人など今は居ないだろう。ここ数年中国アニメのレベルの高さはよく知られ、アニメ大国と言われる日本を脅かすほど。
毎年日本でも何かしら公開され注目を集めるが、本作はその真打ち。
その見事な舞い(エンタメ性とクオリティー)を見よ!
とにかく話が王道。中国舞台や獅子舞題材であろうとも、非常に見易いのだ。
中国のある田舎町。都会へ出稼ぎに行った両親を待ちながら、祖父と暮らす少年チュン。
生活は非常に貧しく、本人も内向的で何の取り柄もナシ。
ハイ、ここだけでシンパシーを感じる人も居るだろう。私も含め。
そんなある日村で、獅子舞大会。村一の強豪チーム(←チュンを見下すヤな奴らだが、ここ伏線)が圧倒する中、ある一人が華麗な舞いで強豪チームを敗北させる。
何と、女の子…! ただの女の子ではなかった。前回の全国大会の優勝者チームの一人。実力は充分なのだが、女の子だからという理由だけで周囲から獅子舞を辞めさせられ…。
名は、チュン。まさかの同名。元々“チュン”とは中国では女の子名。
同じ名前の奇妙な出会いから、少女チュンは被っていた獅子の頭を譲る。
理由はもう一つあった。この時少年チュンに、“奇跡の花”が落ち…。
ひょっとしたら少年チュンは“選ばれた”のかもしれない。
でも当の本人は、美少女に横恋慕して…。
何はともあれ、不純なものであったり不思議な縁であったにせよ、少年は獅子舞を始める事に。
サル顔のマオ。
肥満体型のワン公。
ここにチュンも加えれば、痩せ、ブサイク、デブの冴えない面子。
無論獅子舞の事など何も知らない。
目に余る下手さ、嫌味な強豪チームからバカにされ、嫌がらせも受ける。
こんなんじゃ大会どころか予選すら無理。
負け犬たちには導く者が必要。
紹介された“師匠”。ところが…
ただの塩漬け魚売りの中年男。女房の尻に敷かれ、飲んだくれ、冴えない…。
ところが…!
この中年男チアン、若い頃は獅子舞の達人だった。
が、獅子舞だけで食っていく事は出来ず。結婚を機に夢を捨て…。
冴えない人物が実は…。最初は嫌々だったが、若者たちに懇願され…。自分もかつての情熱を取り戻す…。
ベタ過ぎるって…? だから何だ! それがいいんじゃないか!
チアンの奥さんもいい。恐妻でチアンは奥さんに内緒でチュンたちに獅子舞を教えるが、やがてそれがバレる。ヤベェ!殺される!…と思いきや、許す。それどころか、夫がもっと指導に専念出来るよう、魚の配達も自分が受け持つ。チアンが獅子舞を辞めたのは奥さんに言われてだが、奥さんが夫の夢を辞めさせたのを後悔していたのだ。
夫婦愛、内助の功。子供の居ない二人にとって、チュンたちを我が子のように面倒を見る。それからこの奥さん、べっぴんさんなの。
師匠の教えもあって、上達&成長していくチュンたち。
先に述べた通り、チュンたちは揃いも揃ってのダメダメタイプ。
そんな彼らにだって、長所はある。
長所を活かし、短所をバネにして。
チュンとマオが獅子を被り舞い、ワン公が舞いの太鼓を叩く。
チームであり仲間であり親友。それも築き上げられてきた。
特訓に次ぐ特訓。少年たちの実力も精神も鍛えていく。
言わずもがな、少年漫画的。
中国映画で言ったら、武侠映画か。さらに言えば、ジャッキー・チェンの若い頃のカンフー映画みたい。
本作が胸アツなのも、この王道展開が日本や中国の漫画や映画を思い起こさせるからであろう。
歌にもあるじゃないか。♪︎獅子の瞳が輝いて
だからその後の展開も予想は出来るし、予定調和である。
予選。ビビりまくりのチュンたち。しかも仕事でチアンは遅れている。
あの強豪チーム、練習試合でコテンパにされたチーム、チーム名は“塩漬け魚チーム”で周囲の失笑…。
完全アウェイ。こんな状況で勝てるのか…? 結果は…。
チュンの両親が帰ってきた。が、父親が仕事中の事故で重体となり意識が戻らない。家族の為、チュンが働かなければならない。出稼ぎへ。
獅子舞は辞めるつもりはない。あの予選の結果は、見事勝った。大会へ進む事が出来た。
家族の為の出稼ぎも、大会出場も、その時の仲間や師匠との再会も。
当初はそれらを目指していたが…。
明くる日も明くる日も仕事。
獅子舞の練習する時間など無い。
当初は仲間や師匠と連絡を取っていたが、次第に…。
いやそれどころか、獅子を被る事すらなくなる。
仕方ないんだ。稼がなきゃいけないんだ。僕が働かなきゃ、家族は…。
獅子舞より仕事の方を重視するようになる。それまで離さなかった獅子の頭を置いて…。
ある時街で、あの少女チュンと偶然再会。獅子をやってる?…の彼女の問いに、チュンは…。
自分のやりたい事、夢を追って!…と、見る側は思うだろう。
そうも言ってられない。
底辺で暮らす者に夢を追う事など許されない。家族の為、生活の為、我が身を粉にして働かなければならない。
女の子だから…と辞めさせられた少女チュンも男尊女卑を物語る。
王道エンタメと思いきや、中国社会の現実問題や格差を突き付けられる。
それに屈し、甘んじるしかないのか…?
抗い、自らで運命を切り拓く事は出来ないのか…?
チュンが戻らぬまま、大会開催。
チュンの欠員をチアンが補い、出場。
同村からの強豪チームや強者たちが集う。中に、一際強そうな優勝候補チーム。実は、街で出前仕事してたチュンと面識あり。
そのチュンは…。大会開催は知っていたが、金を稼ぐ為参加しないでいた。
仕事仲間に強引に連れられ、大会を見る事に。
何故だろう。もうやらないと決めたのに、自分の中で迸るものは。
師匠と仲間の奮闘。その姿を見ていたら…。
本来あそこにいなくてはならないのは、自分ではないのか…?
なのに、自分は今何をやっている…? このままでいいのか…? やりたい事に蓋をし、逃げ、一生負け犬のままでいいのか…?
否!
獅子、つまりライオンだ。百獣の王だ。
獅子なら立ち向かってみせろ。猛々しく吠えてみせろ。
もうひ弱な猫なんて呼ばせない。
今こそ、自分の中の獅子が目覚める時。
少年よ、獅子となれ!
チュンが途中から飛び入り参加。
さあ、その獅子の舞いを見せてくれ!
序盤や途中途中などでも披露されていたが、やはりこのクライマックスの獅子舞バトルこそ最も盛り上がる。
華麗で力強い舞い。敷きばら蒔かれた果物を踏まずに花を加える。
決勝戦は優勝候補チームと一騎討ち。引き分け。
延長戦。高い杭の上を舞い踊りながら渡っていく。
そんな事出来るか!…と思いつつも、CGアニメーションならではのアクロバティックなアクション、スリル。
それらを素晴らしいまでに表現したCG技術のクオリティーの高さに圧巻…!
獅子の鬣のふさふさ感、美しい背景や映像、キャラの表情も感情移入してしまうくらい。獅子舞の表情すら思わず“生きてる!”と思わせる。
延長戦、すでに優勝候補チームは見事な演を見せた。
チュンたちが挑む。が、チュンは足を痛め…。棄権の声も出るが、獅子は僕は諦めない。
危ないシーンもあったが、やり遂げる。それだけならまた引き分け、互角に渡り合っただけ。前人未到に挑む。
一際高い杭の上へ。未だ達成者は居ない。
チュンの挑戦を鼓舞するかのように、太鼓が鳴る。チームだけではなく、観戦していた少女チュン、ライバルチームたち、同村の嫌味だった強豪チームも応援。(←ここ、熱い!)
我が内なる獅子よ、飛べ!
結果は…。
王道エンタメ展開、ハングリー精神、ベタではあるが笑い(『クレヨンしんちゃん』のひろしかい!)や感動、社会派テーマ…それらがまさしく獅子舞の各要素の如く合わさり、舞い踊り魅せる。これ以上何が必要か!
私の中の獅子も吠えた!