「”胸アツ”って、この作品のために生まれた言葉かもしれない」雄獅少年 ライオン少年 yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
”胸アツ”って、この作品のために生まれた言葉かもしれない
中国の伝統芸能である獅子舞の演者を夢見る少年たちの姿を描いた、中国発の長編アニメーション「ライオン少年」。広東省の田舎の貧しい家で祖父と暮らす主人公のチュンは、広州に出稼ぎに行っている両親と長い間会えないでいる。自分と同じ名前を持つ獅子舞の演者から獅子頭を譲り受けたことをきっかけに興味を持ち、そして広州で開かれる獅子舞競技大会に出れば両親と再会できると考えたチュンは、かつて村一番の演者だったという干物屋の店主を師匠として、獅子舞の演者を目指し成長していく話。いってみれば、王道カンフー映画の獅子舞バージョンだ。
新宿バルト9で吹替版、池袋グランドシネマサンシャインで字幕版の計2回鑑賞。
いや、もう、最高でした!今年一番感動しました…!
映像の美しさと躍動感、王道だけど確かな感動があるストーリー、魅力的なキャラクターと、全編を通して語りつくせない魅力が詰まりまくった作品でした。
特に印象に残ったポイントを2つあげてみるなら、
1つ目は、広州での少年チュンの屋上練習シーン。冒頭の獅子舞説明描写から惹き込まれる往年のカンフー映画を思わせる演出が散りばめられた本作で、カンフー映画のお約束である「屋上での練習」もしっかり描かれていましたが、こんなにも不憫で切なく、けれども自由で力強い屋上練習シーンは、見たことがありませんでした。仕事を幾つも掛け持ちして練習する時間もないのだろうと、チュンの仲間たちも私たち観客も思っていたところに、独りで練習を続けていたことが明らかになるこの場面の締めくくり、ビルの隙間から昇ってくる朝日が主人公を照らし、陽の光が獅子頭の装飾に当たってカー!と輝きを放つシーンは、ハッと息をのんだ直後に身体が熱くなり落涙した瞬間でした・・・。
この映画の最後の、獅子舞競技大会で擎天柱に向かって飛び、ホンモノの獅子になるシーンと並ぶ名場面だったと思います。美しかった…。
2つ目は、チェンの獅子舞の表現における動きと色合い。チュンの獅子舞の演技は、彼の身体の華奢さもありますが、どこか他のキャラクターとは違う流れるようなしなやかさを携えているように見えました。また、彼の被る獅子頭の鮮やかな赤色は、一般的な赤色が持つ強さや攻撃性というよりも、コーラルよりの朱色で、それはこの作品の主要なモチーフである「木綿(きわた)」の花の色にも重ねているのだと思うのですが、(もしかしらたら単純に伝統的な獅子頭の着色のかもしれませんが)フレッシュさや胸の内に秘める情熱を感じさせる色合いでした。これら獅子舞の表現の中に、同じ名前を持つヒロインのチュンが、女性であるという理由で大会に出場できず、その意思を託された主人公が、彼女の想いを受け取って……と言うよりも、2人のジェンダーが融合した存在感をあらわしているように見てとれ、少年たちと師匠のスポ根に留まらない、アップデートされた表現が、獅子頭のデザインや獅子舞のムーブメントに踏襲されていると感じました。中国アニメ恐るべし…
まるで実写を見ているかのような、ホンモノの質感で描く獅子舞のCGクオリティは圧巻だったし、臨場感あふれる音響効果も見事なものでした。獅子舞がまばたきするときの「バサッバサッ」ていう効果音も大好物でした…!
本当に素晴らしい作品なので、もっと多くの人に観てもらって上映館が増えると嬉しい。
胸アツって、この作品のために生まれた言葉かもしれない…。