「娘井上荒野の眼」あちらにいる鬼 ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)
娘井上荒野の眼
井上光晴(本作のモデル)といえば、原一雄監督の「全身小説家」のイメージが強すぎる。
お世辞にもいい男とは言えないが、口だけは上手くて、女性を自宅にはべらす。
いまどきはハイボールなのに、ウイスキーの銘柄にこだわって、昼飲み三昧。
すべてが昭和調のムード歌謡の映像で、しまいには暑苦しくなる。
男と女がうごめく昭和文壇の世界。それが「全身小説家」だ。
その世界を観てしまうと、焼き直された感のある本作は、ある意味嘘くさい。
こんな爽やかじゃない。豊悦、寺島、広末が眩しすぎてくらくらする。
だけど、破天荒の井上と瀬戸内を正当化する映像ではない。
井上と井上の妻と瀬戸内の、長い親友関係を美化するものでもない。
なにげなく登場する、娘井上荒野の眼が、どこかで光っている。
その眼は優しくもなく冷たくもない。
親への愛も憎しみもない。
だからかえって、違和感のある映像に見えるのかもしれない。
娘の視点が、映像を令和風に変えたのだ。そう実感した。
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