「不気味なバイオレンス世界」ゴールデンカムイ KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
不気味なバイオレンス世界
巻頭いきなり日露戦争の203高地での白兵戦の戦闘シーンが延々と続きます。派手に肉体が吹っ飛び血まみれの日ロの兵士たちが、遠景での戦場全体、引きロングでの日ロの兵士たちの激突、そして寄せアップで兵士が1対1で殺し合う肉弾戦で描かれていきます。派手に肉体が吹っ飛び、血まみれの兵士たちが折り重なっていくカットが、CGも交えて小刻みなカット割りで、メリハリをつけてテンポよく一気に展開しますので、観客には戦慄と驚愕が走り、異常な緊迫感が漂います。
このオープニングで、何だか訳が分からないままに殆どの観客は、本作の不気味なバイオレンス世界に強引に引きずり込まれ心臓を鷲掴みにされました。
漸く山﨑賢人扮する主人公・杉元佐一、通称:“不死身の杉元”の、北海道を舞台にした話になった後も、銃撃、爆発、炎上、監禁・拷問、疾走する馬ゾリでの格闘に加え、ヒグマの襲撃と一騎打ちがたて続き、ほぼノンストップで、手を変え品を変えた激しいアクションが繰り広げられる、日本映画では珍しいジェットコースタームービーです。
そもそもが、明治末期の真冬の北海道を舞台にしたアイヌの埋蔵金探しの話なので、モノクロ世界というシンプルな映像構図での、強欲に満ちた登場人物たちによる迫力ある追跡劇や銃撃戦には、寄せアップと引きロング、フィックスとトラッキングを交えてテンポよくカットを割って映し出すので、異様な緊張感がスクリーンに溢れかえり、ハラハラドキドキが止まりません。
ただアイヌ語やアイヌの風習が出て来ると、いちいちテロップの解説やヒロインのアシリパの注釈が入り、その都度テンポが怠くなって急に熱気が冷まされるのが、本作の難点でしょう。
さて埋蔵金を狙う者たちは、主人公VS敵という単純な善悪対決構造ではなく、個性的で凄味のある物騒な曲者どもの集団がいくつもあり、敵味方が判然としないままストーリーが進行します。ミッション・インポッシブル最新作と同じような構図で、観客を不安と混沌に陥れ続け、何も解決しないままに本作はエンディングを迎えてしまいます。
つまり本作は、壮大な物語世界のイントロに過ぎません。恐らく、今後、互いに手を組んだり、裏切ったり、出し抜いたりといった、単なる勧善懲悪の枠に収まらないドス黒い駆け引きが繰り返されるのでしょう。
本作で伏線が色々と張られたので、PartⅡ以降のスケールの大きい展開が更に期待できます。
映画館で観るに値するスケールの大きさとストーリーの奥行きの深さを実感でき、大いに堪能できる作品といえます。