EO イーオーのレビュー・感想・評価
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ロバの瞳に映るもの、映らないもの
ただ生きる、その崇高さ、美しさ。
(人)生にストーリーは なくても良い。
映像だけで、眠っている本能が覚醒する、ガツンときた。
世界は厳しくて、優しくて、美しい。
時折挟まれる死の描写。
それは、生あるものが、等しく背負うもの。
ならば何も背負わず、ただ今を生きれば良い。
人間は愚かで、だけど他者を愛する事が出来る。それは物凄い才能だ。
人間の身勝手さが際立つ
ロバのロードムービー
無口なEOに対して人間の身勝手さがより際立つ。
動物がたくさんでてくるが、どれもEOを未来を暗示するかのような不安な描写。
心象風景のような映像と派手な音楽も相まって独特の雰囲気の映画になっている。
ラストの絶望感が心に残る
素晴らしい
スコリモフスキーは超人だ。キレッキレのショットと熟練技で、現代の最先端の映画を見せてくれた。現役バリバリの85歳。
「生き返る芸」を披露するサーカスを上から映し、その円環から“EO”の文字が現れるオープニング。EOの瞳の大写し。空中散歩をするようなドローン映像。動物を人格化せずEOの目線で世界を見る、こんな映画は初めてだ。
神は実に様々な形で存在する。宇宙や太陽、流れる透明な水、風、空を飛ぶ鳥、森の生き物、家畜や人間。万物はそれぞれが神が表現する様態のひとつだ。可愛いEOの無垢がそれを見事に物語る。
神は“自然の法則”そのものだから、超能力のような仕方では存在しない。宗教も奇跡も、サーカスの芸と同じでインチキだ。
そして人間は、インチキな神や王のように、動物たちにポジションをわりふって支配しようとする。
誰もかれもが抜きつ抜かれつ一方向に走り続けさせられる虚しい人間社会。科学の発展も止まることを知らない。人間の営みも自然方則のひとつだとすれば、もはやなすすべもないのか。
人間たちに酷い目にあったときにEOが見た4本足の機械の幻覚は、地上から動物がいなくなってしまい、機械が代用品として動き回る恐ろしい世界のイメージを思った。
動物愛護
主役は、人間の娯楽の為サーカスで酷使されていたロバです。
この映画はロバの視点で描かれます。
毛皮の為や狩りで殺されるキツネ、トラックで屠殺場へ運ばれるブタ…
心が、綺麗だったら、優しかったら、感じるはず。
撮影に使われたキツネは、毛皮農場から救いだされたキツネだそうです。
人間が着飾る為だけにキツネを殺すなんて腐った行為、毛皮なんか着たって心が腐ってるのに。
最後エンドロールで、
“本作は動物と自然への愛から生まれました
撮影で、いかなる動物も傷付けていません”
と出ます。
撮影中、動物達がストレスを感じず楽しく快適に過ごせるよう、獣医がケアし、適切な休憩を取り、気を配ったそうです。
本当に動物を虐殺した、最低最悪ゴミクズ映画『食人族』とは大違い。
ドラマチックなロバの目を通して見る人間は
ロバは愚か者を表すことが多い気がするが、本作を見るとそんなことはない。ロバの憂いを帯びた表情、目に引き込まれそう。
サーカスで暮らしていたが、あちこち連れ去られ、様々な人に出会う。
人間の良い面もあるが愚かな面が多く描かれている。EOの体験する人間の独善的な正義や、不条理さは観ていて辛かった。
ラストもなんでよ〜とちょっと嫌な気持ち。
動物に、そして人に優しくあれ
ポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督の7年ぶりの新作。
ロバの目を通して人間の愚かさを描くということでブレッソンの『バルタザールどこへ行く』を思ったがテイストは全く違った。
こちらはインパクトが強い映像と音でグイグイ押してくる感じ。圧が凄かった。
だだしブレッソン作品の淡々とした容赦のない悲劇に軍配が上がった。
青と黒も勝利を掴んでほしいなぁ…
人間が犯すありとあらゆる愚行を嫌という程見せつけられる訳だが、それを擁護も糾弾もせずロバ目線で淡々と描写し、人間が何かやらかす度に憐憫・軽蔑・驚愕など様々な表情を見せているようにうまく撮影されていて,こいつはちょっと一本取られましたな。
他評者も御指摘の通り、音楽と音響効果が独特で、実時間と体感時間が乖離したような不思議な体験をさせて貰った。
動物もさることながら、演出が魅力的
動物を通じて人間の滑稽さを描くというテーマから惹かれるわけだが、それ以上に映画として印象的な作品だった。
派手な照明、カメラアングル、演出など、動物が話せない以上に映像で表現している割合が多く、どれも芸術的なものだった。
すべてを理解できているわけではないが、単に人間を愚かに描くのではなく、良い人悪い人、いろんな人がいて。
最後はわかりやすいし、想像できるが、あっけなさもある。
2023年劇場鑑賞69本目
オルタナティブな世界に酔う
好き。入り口が「アレ」だからこそのあの「出口」、素晴しいや。そしてイーオーの可愛さたるやね。ちょっとだけ「LAMB」を片隅に置いていたので、思いの外ストレートで安心しました。人のエゴという都合を淡々と描いた快作だと個人的には思います。点数は受け入れられ難そうだからガマンしました笑
人間とロバ
イエジー・スコリモフスキ監督作品は『エッセンシャル・キリング』というものを10年以上前ミニシアターで観た。アラブ人テロリストが逃走するシーンを一切のセリフなしに描いた作品だったが、今回もロバが主人公ということで、そもそもセリフが少ない。監督いわく、ロバの目を通して人間のおかしさや愚かさを描いたという。
ロバはよくウマと比較されるようだ。ウマは社会性があり、繊細であるのに対して、ロバは新しいことを嫌い、唐突で駆け引き下手で、図太いといわれる。ロバには頑固で気分次第で動かなくなるような融通の利かないところがあるため、西洋においては愚鈍さの象徴とされている。騎士はウマに騎乗し、富農は牛馬を育て、ロバは貧農が育てていた。この映画ではEOが動物愛護団体によってサーカス団から引き離され最初に連れてこられる厩舎でウマは大切に扱われるのにEOは邪険にされるというシーンが描かれていた。
その後、農場、サッカー場、ドライブイン、司祭の自宅など場所を転々とする中で、動物愛護法によって守られるはずのEOが逆に人間に弄ばれるという様相を呈していく。そして、最後は屠殺場へと導かれる。セリフも発することなく、内面を代弁するナレーションもなく、EOはいつもその大きなつぶらな瞳で人間社会を観察している。その佇まいがなによりも雄弁であった。
ウマと比べて虐げられているロバであるが、粗食にも耐え、厳しい環境下で働くことができ、また力も強いという立派な特性もあるらしい。EOの瞳が憂いを帯びているのは人間に使役され続けたからなのか。なにか自分もEOに見られているようで、身を正さなくてはいけないという気持ちになった。
オーイ!
大作『TAR』(158分)を見た後だと、上映時間たったの88分という本作のスケールの小さがやたらと気になってしょうがない。長けりゃいいというわけでもないが、内容的にも本作はかなりスカスカだ。オマージュ元の『バルタザールいきあたりばったり』は、主人公のロバ君に悪逆非道の限りをつくす人間の愚かさを、ブレッソンらしく宗教的演出で描きあげた作品だ。バルタザールのしっぽに火をつけたり、お尻の皮が剥けるほどムチで何度も打ちつけたり.....今の時代、そんな演出をしようものなら一発アウト。動物愛護団体からの即クレームで上映禁止のおとがめを食らうこと必至なのである。
では、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキーがロバのEOに何を見せたかというと、現在のポーランドが抱えるいろいろな社会問題である。くまのプーさんに出てきたロバの名前が確かEOだった。ロバ特有のいななき「イーオー」から名付けられたと思われるのだが、本作のEOにはおそらく別の意味が被せられている。EUに加盟したポーランドという意味を別途背負わされているのではないだろうか。ポーランド国旗をイメージさせる“赤”を基調としたライティングが、尚更そう感じさせるのである。
お約束の動物愛護団体の反対でサーカス団から解放されたEOは、そこでサラブレット(特に葦毛)たち=EU先進国から差別的待遇(LGBTQ差別国家としてもポーランドは有名)を受け脱走。「青と白(ウクライナ侵攻のロシアに対する抗議シンボル)が俺たちを強くする」と歌うサッカーチームのマスコットにされるが、親ロ派と思われる敵チームの襲撃を受けEOもついでにボコられてしまう。ウクライナを指示するポーランドが、ロシアを指示するハンガリーよりも逆に困窮している現実を反映したのだろうか。ここで登場する○○○○○EOがなんとも不気味。頭の欠損したその姿は、思考を捨て悪の凡庸に染まってしまったポーランド人を揶揄したのだろうか。
再生可能エネルギーとして期待されている風力発電の羽根にあたって野鳥が激突死、森にすむ狐たちは密猟のターゲット。そんな環境破壊への懸念や、外国からの移民流入によりポーランドの治安が悪化する様子を、荷台につまれたEOはつぶらな瞳でただ静かに見つめるのである。そして問題は、フランスの名女優イザベル・ユペールとイタリア人俳優ロレンツォ・ズルドロが登場するシーン。なぜかここだけ他とはまったくトーンが異なっていて、映画の雰囲気を目茶苦茶にしてしまっているのだ。
おそらく、出資を受けるにあたり2人をキャスティングすることが前提条件だったと思われるのだが、ほとんど気合いの入っていないユペールの演技もさるとこながら、これほど本編から浮いているシークエンスが含まれた映画というのをこれまであまり見たことがない。加盟はしたもののどことなくEUから浮いた存在のポーランドのメタファーというわけでもないのだろうが、何をどうしたらあんなどうでもいいシークエンスをぶちこもうなんで気が起きるのか。皆目検討がつかないのである。
映像は良かったけど
主演ロバに近い目線から映し出される風景、生き物、人間…カメラワークはすごい良かった。
冒頭、少女から溺愛されていたEOは予想しなかったエンディングを迎えるが、移り変わる場面の掘り下げが無く、突然ストーリーが切り替わって、「え?どうしてこうなった?」「その経緯は?」って思う事がたくさんあった。
もうちょっと登場人物に感情移入できたらなぁと。
ストーリーとは関係ないけど、ゴールキーパーのわがままボディはなんか凄かった。
ロバの瞳に映る世界
ロバが様々な地域を旅する作品という事前情報のみで鑑賞。
全体的にEOと名付けられたロバの瞳で映る世界をそのまま映した特殊なロードムービーのようでした。人間の優しさに触れつつも、人間の身勝手さが色濃く描かれていて考えさせられるものもありました。
とにかく人間同士の争い、マウント、自己満足、同じ生物なのに屠殺する様子も、自身が襲われる様子も主観で映され、辛い映像も度々挿入されていました。
良い方向に取られることもあれば、悪い方向に取られ、その相反する状況に何度も巡り合ってしまうEO、喋れないが故にその瞳でしか感情を読み取ることができないのがなんとも歯痒いです。
終盤、EOと関係性が薄い人物たちの会話劇になってしまうので、そこからEOの物語のラストに繋がる感じがしないまま唐突に終わってしまったのは消化不良感が否めなかったです。
物語に何か整合性があるわけではないですが、人間の残酷さを知るにはこの上無い作品でした。もっと動物に優しくせねばな…と思いました。全ての動物を救うというのは夢物語ですが、少しでも力になれればと引退競走馬の支援をしています。ナイスネイチャ~。
鑑賞日 5/11
鑑賞時間 14:30〜16:05
座席 G-3
映像は魅力的だがストーリーが心に響かない
詩情豊かな映像には思わず引き込まれる瞬間があるが、EOの放浪の旅からはあまり寓意や教訓のようなものが感じられず、動物の目を通して人間の本質を炙り出すような話にもなっていない。
サッカーチームにボコボコにされて瀕死の状態になっているはずのEOが、いつの間にか荷車を引いて働かされていたり、人間を蹴り殺した?EOが、次のシーンでは馬と一緒にトレーラーに乗せられたりと、エピソードとエピソードの繋がりの悪さも気になる。
EOを巡る物語のはずが、終盤ではEOとは関係のないところで話が進むため、エンディングでEOが迎える運命にも唐突感が否めない。
途中、ロボット犬が出てきたりして、結局、何が言いたいのかよく分からなかったのだが、「動物愛護」の名目で保護されたことから始まるEOの受難を描くことで、人間の偽善や身勝手さを糾弾したかったということなのだろうか?
おとぎ話は飛躍する
おとぎ話は飛躍する。ましてやロバ目線だと話がとんでしまい、人間(私)はなかなかついていけませんでした。
エンドクレジットの音楽が流れ始めると同時に、思わず「まじか…」とつぶやいてしまった。
私の両サイドに座っていた(20歳代と30歳代らしき)2人の男性は、まるで申し合わせたように同時に前かがみになって、頭を抱えてました。
ごめんなさい。僕にはわからなかった。
イエジー・スコリモフスキ監督は今回が初鑑賞
『バルタザールどこへ行く』は未見(TSUTAYAにすら無いとは驚いた)
それが良くなかったのか、イマイチ流れに乗れなかった。
最初の動物愛護団体のいわゆる誰得運動は良かった。
動物のことなど微塵も考えてなく、ただ自分が信じる正義に酔いしれたいだけの偽善者であることは、その後のEOへの仕打ちから明白である。
次に、白馬と雑誌(?)の撮影をしている光景を見かける際も、結局人間は動物を都合の良いインテリアにしか思っていないということが伝わってくる。
この流れから「EOはこれからいろいろな善人や悪人と会うけれども、どいつもこいつも人間様が偉いというスタンスは自覚的であれ無自覚であれ同じで、そいつらの身勝手な行動によりEOはどんどん不幸になっていく」という話を想定したが、どうも微妙に違った。
サッカーチームのところまではその観点で見ると面白かったが、そこからどんどん人間の所業とEOの運命の関連性が希薄になっていったように感じた。
特にイザベル・ユペールが出てくるあたりでは、人間側の行動とは関係なくEOは自由に動けてしまう。
よってあのラストも「人間の身勝手さのしわ寄せを一身に受けた成れの果て」という感じがあまりせず、理不尽さや不条理さもさして感じなかった。
そのような憤りを感じさせることがこの作品の目指していたところだとは思うが、以上の理由により僕にはイマイチ響かなかった。
たらい回しの旅
イーオーにとって傍迷惑でしかない動物愛護団体による無駄な正義感から人間の愚かさをロバの目線で描く目的ですら定かではない旅、サーカス団は居心地の良い場所でカサンドラとの再会を待ち望んでいる、そんな寂しげな表情を見せるけれど、それですら人間側の勝手な考え方でしかない、仄々とした動物映画をイエジー・スコリモフスキが、そんな意外性を感じながら、危機感を煽るショッキングな映像描写から優雅で自然美溢れる映像とロバに癒されるだけの映画にはならない、人間が世界の中心で暴力が当たり前の日常でしかない。
イザベル・ユペールが登場してから別の映画が始まるようで短編にもならない本作との重要性も感じられない不思議な感覚、インスパイアされたロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』と比較しなければならないか、少しだけエミール・クストリッツァだったらどう撮っていただろう、と、関係無いけれど思ってみたり!?
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