「人間とロバ」EO イーオー ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
人間とロバ
イエジー・スコリモフスキ監督作品は『エッセンシャル・キリング』というものを10年以上前ミニシアターで観た。アラブ人テロリストが逃走するシーンを一切のセリフなしに描いた作品だったが、今回もロバが主人公ということで、そもそもセリフが少ない。監督いわく、ロバの目を通して人間のおかしさや愚かさを描いたという。
ロバはよくウマと比較されるようだ。ウマは社会性があり、繊細であるのに対して、ロバは新しいことを嫌い、唐突で駆け引き下手で、図太いといわれる。ロバには頑固で気分次第で動かなくなるような融通の利かないところがあるため、西洋においては愚鈍さの象徴とされている。騎士はウマに騎乗し、富農は牛馬を育て、ロバは貧農が育てていた。この映画ではEOが動物愛護団体によってサーカス団から引き離され最初に連れてこられる厩舎でウマは大切に扱われるのにEOは邪険にされるというシーンが描かれていた。
その後、農場、サッカー場、ドライブイン、司祭の自宅など場所を転々とする中で、動物愛護法によって守られるはずのEOが逆に人間に弄ばれるという様相を呈していく。そして、最後は屠殺場へと導かれる。セリフも発することなく、内面を代弁するナレーションもなく、EOはいつもその大きなつぶらな瞳で人間社会を観察している。その佇まいがなによりも雄弁であった。
ウマと比べて虐げられているロバであるが、粗食にも耐え、厳しい環境下で働くことができ、また力も強いという立派な特性もあるらしい。EOの瞳が憂いを帯びているのは人間に使役され続けたからなのか。なにか自分もEOに見られているようで、身を正さなくてはいけないという気持ちになった。