「汚染、浄化、洗練」逆転のトライアングル 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
汚染、浄化、洗練
人気モデルでインフルエンサーのヤヤと、その恋人で落ち目の男性モデルのカールは、豪華客船のクルーズ旅行に招待される。
そこにはクセの強い富豪たちが集まり、乗務員の丁寧な接客のもとでゴージャスな船旅が繰り広げられていた。
しかし、キャプテン・ディナーの夜、豪華客船は嵐へ突入し、乗客たちはひどい船酔いに。船内は地獄と化す。
船は翌朝沈没、近くの無人島に漂着して助かった数名の乗客と乗員。
その中で主導権を握ったのは、なんとトイレの清掃婦だった。
昨年のパルム・ドールに輝いたリューベン・オストルンド監督最新作。
監督の作品は『ザ・スクエア〜』に続いて2本目だが、今作でも安定の悪意MAXブラックコメディが炸裂している。
本編は三部構成で147分と少々長い。
でも、本当に驚いた。全く飽きない。一瞬たりとも集中が切れない。
正直言うと、『ザ・スクエア〜』は途中で集中が切れてしまったので少し時間を空けて鑑賞した。
ひたすら淡々と、それでいて劇的に、常に画面の中で何かが起こり続ける。
三部構成も上手くて、展開や主題は一貫していながら一部ごとに全く違う味わいがあった。
まずは第一部「カールとヤヤ」。
昨今話題の女性に奢る奢らない問題を真正面から描く。
延々と続く押し問答にイライラする。もちろんいい意味で。
どうやら監督の実体験を元にしているらしい。
冒頭の「H&M、バレンシアガ」から心を持ってかれる。
正気の中の狂気みたいなものに最高の人間味を感じる。
次に第二部「ヨット」。
オストルンド金持ち嫌いすぎるだろ笑
本当によく人間観察をしているのが伝わってくる。
人間とはまさにこういう生き物。
こういうやついるいるが満載だし、自分もこうはなっていないだろうかと客観的に自分を見ることになる。
こういう富裕層の老〇に限って、自分の価値観押し通してきたり、さりげなくマウント取ってきたり、ありがた迷惑な善意を押し付けてきたりする。
優雅で豪華な船内での生活。煌びやかで綺麗な面ばかりが目立つが、嵐の夜の地獄への変貌は革命的。
美味しそうな料理も高貴な人々も飾られた装飾品も地位も名誉もそして金も。
キラキラ輝いていたものたちが汚物でどんどん汚されていく。
いつの間にか画面はゲロとクソまみれ。
こんなしっかりゲロな映画は初めてかもしれない。
確かに汚い。ただ、自分には本来の人間に姿に立ち戻る浄化に見えた。
着飾ったものや汚れきったうわべの姿を取っ払う魔法。
言いたいことを全て吐き出して見える真の姿とは何なのか。
そして、第三部「島」
全てを吐き出した彼らは空っぽになった。
ここには名誉も金も無い。ただ本能のままに生きる人間。
性欲も食欲も睡眠欲も抑えることはできない。
僅かばかり残った理性だけで何とか生き繋ぐ。
富に囲まれてきた彼らは火も起こせないし、魚も捌けない。
動物として最弱になった彼らの中で王者となったのは、トイレ清掃婦のアビゲイルであった。
女は群れ、知性を働かせ、陰で仲間を妬む。
男は一匹狼、本能のままに、表で仲間を嗤う。
ラストは解釈・賛否の分かれるところ。
監督の意地の悪さが最高のフィナーレを演出していると、個人的には思った。
この映画への不満は一点、この邦題。
原題の通りに『悲しみのトライアングル』で良かったのでは。
立場逆転映画ってことを伝えたいのは分かるけど、これじゃ逆三角形?ってなってしまうではないか。
ちなみにこの「Triangle of Sadness」っていうのは美容用語で、眉間にできる三角形の皺のことらしい。
こんなゲロクソまみれの映画が最高賞ってやっぱりカンヌはやっぱり頭がおかしい。
今作はアカデミー賞にもノミネートされているらしい。アカデミー賞作品が合わない自分にとってはこういう作品が獲って欲しい気もするけど、ちょっと厳しいかな。
観察のもと、さらに磨きがかかった人間という生物への探究心。
第一部では個人的な、第二部では社会的な、第三部では本質的な人間の嫌な部分をよりシニカルに問い詰める傑作。
ルッキズムや前述の奢り問題、貧富の差からインフルエンサーの話まで、日本でも近年よく炎上するような社会問題が少しずつ入っているので、そういった意味でもおすすめ。
ただ、人が吐いてるの見て吐いちゃうような人は観ない方がいいかもしれない。
眠気覚ましにポップコーン買わなくて良かった……
とりあえず人間嫌になったので人間辞めてきます。
〈追記〉
ヒロインのチャールビ・ディーンが32歳の若さで亡くなり、今作が遺作となってしまったのがなにより残念でならない。