「社会の実験劇場、あるいは思考のテーマパーク」逆転のトライアングル 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
社会の実験劇場、あるいは思考のテーマパーク
147分の作品なのに全く長さを感じない。いざこの乗り物に乗車したなら息つく暇もないほど翻弄され、これまで考えもしなかった境地へ連れていかれる。その意味で、オストルンドの手がける作品のことを思考のテーマパークとでも呼びたいほどだ。冒頭のレストランでカップルが交わすダイアローグほど間に挟まりたくないものはないし、階級社会を凝縮させたあの豪華客船にだって絶対に乗りたくない。嫌だ嫌だ、と部屋に引きこもるハレルソン船長のことが本当によく理解できる。しかしそんな連中の勘違いの生態や悪趣味を皮肉り、最高のディナータイムをご用意したかと思えば、さらに価値観の軸をちょっと変えるだけで革命のごとき逆転現象が起きるのだから痛快である。現代社会にはびこる不条理や居心地の悪い状況を俎上に乗せ、さながら実験劇場のようにじっくり観察、吟味するこのひととき。終映後は見慣れた世の中がガラリと違って見えるから不思議なものだ。
コメントする