「沈む原因そっちかよ」逆転のトライアングル Jaxさんの映画レビュー(感想・評価)
沈む原因そっちかよ
ファッションショーで「平等」「多様性」が叫ばれていながら、後から来たVIPのために席を譲らされる皮肉。
金持ちのグロテスクさ、金を求める人々の滑稽さは良く描かれているが、そこが無人島漂着後のヒエラルキーの「逆転」においてもアビゲイルの支配欲はやはり金持ちのそれと変わらず醜悪である。
食べ物のために性的に搾取されるマークの立場は男女逆にすればどれだけグロテスクなものかわかるだろう。(もちろん男女逆でなくてもグロテスクではあるが…)
テンポがもうちょっと良ければあと20分削れたし見やすい映画になっただろう。ロード・オブ・ザ・リングのように背景が美しい中つ国の風景なら2時間半でも退屈しないかもしれないが、カップルの喧嘩、金持ちの傲慢と嘔吐描写、無人島のサバイバルで2時間強はきつい。
武器商人の夫婦が自分たちが売った武器で吹っ飛んだのはとても爽快だが、現実の武器商人たちは何の罰もなく儲けを出し続けているから、それを思うと正直やりきれない。というか沈む原因そっちかよ。
妻の死を悲しみながらも、遺体からアクセサリーを回収することを忘れないロシアの富豪。
マークは悪人にはなり切れないが決して善人でもない、ヒーローにもフェミニストにもなれない、どこにでもいそうな顔がいいだけの男である。観客の大多数もそんなものだろう。
私を養えない男には興味がない、と言い切るヤヤ。妊娠出産時のためのリスクマネジメントと思えば、共感できる女性も少なくないのだろう。
ヤヤはカールが搾取されるのを泣きながらも、おこぼれで得た食料を口にち、アビゲイルの行動力に敬意を表する。これも無人島でのヒエラルキーゆえだが、ラストであくまでアビゲイルを「雇える側」のつもりでいる傲慢さは変わっていないもかもしれない。
ヤヤを演じたチャールビ・ディーンは本作が遺作となったそうで、冥福を祈ります。