「静けさの中、やがて嵐がやってくる」ヨーロッパ新世紀 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
静けさの中、やがて嵐がやってくる
原題「RMN」はルーマニア語でMRIという意味だとか。なるほど本作には年老いた父親が医療施設でMRIを受けるシーンが描かれるし、この映画そのものもまた、現代ヨーロッパの田舎町をめぐって、表層からは窺い知ることのできない内部状況をつぶさに探ろうとする構造を持っている。えてして我々はヨーロッパをひと括りにして考えがちだが、本作からは地方の閉鎖性、外国人への差別意識、EU補助金をめぐるジレンマ、東西格差の問題など、様々なものがマグマのごとく溜まりたまっている様子が伺える。これらを観客に突き付けてただただ嫌な気持ちに浸らせるのでなく、事態が最大風速を迎えるくだりでムンジウ監督があえて固定カメラで長回しに打って出るところなど、我々の理解と映画の魔法とを深く交わらせようとする趣向もまた大きな魅力だ。このような病巣は世界中に溢れている。本作はさながら鏡のような存在であり、かつ現代の寓話とも言えるだろう。
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