劇場公開日 2023年5月12日

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「その日々は、全ての子供にとっての通過儀礼」アルマゲドン・タイム ある日々の肖像 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0その日々は、全ての子供にとっての通過儀礼

2023年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

大人になってしまえば、
幼い頃の記憶や、とりわけ感情は徐々に薄れていく。

なので、その状態で子供に接すれば、
気持ちの行き違いが生じるのは致し方ないこと。

「しつけ」をするのは、
なにも厳しく相対することが目的ではなく、
真っ当な人間に、更には親を越えて育って貰いたいとの
強い想いがあるから。

しかし、それはどうにも上手く伝わらない。

親と子の関係は、有史以前から
おそらく同じすれ違いを繰り返している。

1980年のニューヨークは、
たぶんディスコサウンドが席巻する街。

しかし十一歳の『ポール(バンクス・レペタ)』の嗜好は
『The Beatles』と、一風変わっている。

彼は絵の才能を発揮するものの、
教師の話の最中に、ノートに似顔絵を描いていれば、
それは目を付けられようと言うもの。

家庭でも、その奇矯な行動は
大人から見れば目くじらを立てたくなる。

とりわけ、母親の料理にケチをつけ、
高価なケータリングを勝手に頼むなどは、
人の気持ちを慮ることができるのか、と
義憤さえ感じてしまう。

そんな彼が心を許すのは、
親族では祖父の『アーロン(アンソニー・ホプキンス)』、
学校では黒人で貧困家庭に育った『ジョニー(ジェイリン・ウェッブ)』。

後者とは、『ポール』が転校させられたことにより疎遠になり、
前者とは悲しい別離が待っている。

そうして心の支えを失った時に、
少年のとれる道はどのようなものか。

主人公の心の機微を細かく描くことで成立する本作は
おそらく監督・脚本の『ジェームズ・グレイ』の自伝的物語。

とは言え、自分の子供時代と引き比べ、
或いは大人になった目からしても、
彼の行動の端々はあまりに共感できぬものばかり。

自身の行動で他人が傷つくことを目の当たりにすれば、
その場では逍遥とするものの、
暫くすれば似たような行いを繰り返してしまう。

おおよそ人との、わけても大人との関係性においては
学習能力が欠如しているとしか見えないキャラクター。

それは幾つものイニシエーションを経ても、
何の変化も見られず、成長と言うものを感じられない。

良い意味では、瑞々しいままとの表現はできるものの。

兄に辛く当たられる、父親にベルトで打たれる、
母親に厳しい言葉をぶつけられる、教師からは懲罰を受ける等のシーンはあるものの、
本作に本当の意味での悪人は登場しない。

皆々が子供を導いてあげたいとの思いからの行為が
どうにも捻じれてしまう。

それを受ける身にとっては、
タイトルに結び付くように感じられるのだろう。

直近の作品では、随分と好々爺ぶりが板に付いた『アンソニー・ホプキンス』。
三十年前の『ハンニバル・レクター』からは隔世の感があり。

可能ならば、とことん悪に染まった彼を
再度見てみたいもの。

ジュン一