劇場公開日 2023年7月14日

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「実像を歪ませる美しさの正体」CLOSE クロース tandemさんの映画レビュー(感想・評価)

0.5実像を歪ませる美しさの正体

2023年7月19日
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悲しい

難しい

匿名のSNS上(Twitterなど)ではゲイということをオープンにしていて、一方仕事上では特に聞かれもしないし当たり前のように異性愛を前提として仕事やプライベートに関する話題が進んでいくが故に現実ではヘテロっぽく振る舞いながら生きているのですが、そんな生活の中でりゅうちぇるさん、市川猿之助氏、そしてジャニー喜多川氏に関する話題になるたびに、その自分の生活の歪さがそのまま社会に投影されているようなそんな沈むような気持ちになりながら最近は暮らしています。

唯一の趣味である映画鑑賞という領域においても今年は邦画も含めて自身のセクシャリティに関連するテーマの映画が沢山放映されています。『怪物』『大いなる自由』『老ナルキソス』『エゴイスト』『CLOSE』、個人的には『aftersun』もそう感じたかな。その中で、個人的に一番当事者間のやりとりや関係性、ビジュアルが美化されていると感じて、腹が立ったのが本作と『エゴイスト』でした。というか、『怪物』という映画に「こういう痛みを描いてくれるヘテロ(多分)の監督や脚本家がいるのか。しかも日本に」という衝撃を受けて、それをきっかけに普段なら無意識に避けて見に行かないような映画を見に行った自分も悪いのですが、本作『CLOSE』は子供の世界だけで描かれる曖昧な関係性をただただ鑑賞するだけの映画で、本質的なレベルで大人が介入する場面もなく、そこに映画的な快楽を誘発させたいという強い意図を感じました。正直美しかったし、自分の中だけで葛藤していた自身の幼少期と照らし合わせたが故にその美しさに不愉快になったという側面もあるとは思うのですが、ではなぜ同じような年齢の子供を扱ってる『怪物』にそういった不愉快さを感じなかったのかふと疑問に思ったんです。その疑問を紐解いていった結果、『CLOSE』と違って『怪物』は作品の前提、テーマからして社会というものの枠組みの中に2人の子供をしっかり含んでいたからだと思いました。2人の子供をただの天使にしたり、関係性を安易に聖域化していない。そこには作り手が具体的に届けたい個人の存在のようなものを感じました。

一方で、『CLOSE』には監督の過去を美化したい欲求や映画的快楽を誘発させるためのプロダクションデザイン全体に対する作為性をどうしても感じてしまいました。でも、こういう映画がこの世から消えてほしいとも思いません。勿論、大嫌いですが。ただ、こういう風に自分が感じる違和感の所在を明確にする機会を得られるのなら自身に合わないであろう映画を見ることも必要だなと思い直すきっかけの作品にもなったのも事実です。

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tandem