「情けは人のためならず」トリとロキタ bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
情けは人のためならず
ダルデンヌ兄弟による移民問題を題材にした作品です。前作「その手に触れるまで」では、郷に入って郷に従わぬイスラム原理主義、その教義に感化された少年を軸に、3人の女性が登場。女性たちは「恋愛」「無償の愛」「赦し」を象徴する存在。根底には移民に対する暖かいまなざし、ってのがあります。
その基本的なスタンスは、今回も同じですが、登場人物の「象徴性」はやや希薄。ドラマ性を強調しつつ、ダルデンヌらしい淡々としたストーリー運びを、長回しのカメラと過剰演出無しの描写で、89分にまとめています。
欧州における移民政策は、中東から流入する紛争難民の増加で岐路に立たされています。元々、数世紀に亘るアフリカの奴隷支配に対する贖罪の意味合いから、人道的立場に立ち移民を受け入れてきた欧州諸国。アフリカからのボート・ピープルは、仮にイタリアに上陸したとしても、旧宗主国へと移送され支援施設に収容されます。中東からの紛争難民、アジアからの違法難民の増加は、こうした人々への支援に危機的な影響を及ぼしていると思われ。
特にフランスに関しては、これ以上の移民受け入れを拒絶する世論も高まっており、Objectionとして移民に対して同情的な映画が毎年のように製作され日本でも公開されています。その中で、ダルデンヌ作品は過度に左に振れることもなく、あくまでもニュートラルな立ち位置を崩しておらず、まるでドキュメンタリーでも見ているような感覚にとらわれてしまいます。
正式な手続きを経ていないがゆえにビザが取れない。就学も働くこともできないがゆえに法に触れる違法行為に手を染めるしかなくなる。ブローカーには際限なく集られ、裏社会からは都合の良い捨て駒として使われる。欧州に限った話ではなく、程度の差はあれども世界の先進国の、どこにでもある話のように思われ。
さあ、この問題、どうする?
と言う投げかけ。問題提起。
そうなんですよ。問題提起で、特に強く何かを主張しているわけじゃない、ってところがダルデンヌらしくて好き。
奇しくも。つい先日、入管法修正案が衆議院法務委員会で可決され、5月にも衆院を通過する見通しです。一部野党は強硬に反対しており、メディアも「数々の事実」を報道しないまま、反対側に偏重した報道を続けています。特定野党は「改悪」って言ってますが、他国に比べても、まだまだ甘いです。某TV局なんて「入管施設での長期収容の解消を目的とした入管難民法改正案」なんて言ってますから。もう滅茶苦茶です。そんな話じゃないです。「出入国管理の形骸化」を招きかねない「ザル部分」を手遅れになる前に補修しよう、ですから。「補完的保護対象者」制度も新設されます。在留資格がない子どもらに「在留特別許可」を与える方向での修正も加わりそうです。更に並行して、「事実上の奴隷制度」だった外国人技能実習制度が廃止となり、完全な新制度への移行が推進されます。要するに、「ちゃんとした手続きを経て日本へ来て、ちゃんと働いて日本で自活していける人達は、受け入れていきますし、そうでなくても、もはや本国に帰ることができない子供たちについては柔軟に対応していきます」、ってのが大きな方針な訳で。メディアには、全体感を持った報道をして欲しい。
情けは人のためならず。根本的に、んな不幸な人々を生まないような法整備をすること、それを要求していくことが重要、って事で。