「クローネンバーグのSF嬉しい」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)
クローネンバーグのSF嬉しい
久々のクローネンバーグ作品で、しかも初期作と同じタイトルだし、SF的なイメージが前面に押し出されているしで、かなり期待高まりつつも主演がヴィゴ・モーテンセンなので、どうなのかな、とも思いながら観に行ったんだけど、もうどこをどう切ってもクローネンバーグの映画としか言えない作品だった。意味不明で頭のおかしな作品世界上を、更に頭のおかしい理屈を持ってキャラクターたちが蠢いているのに、クローネンバーグ自身が作品世界を信じて真摯に構築しているから、こちら側もそんな狂気の世界に魅せられ、同期し順応し、作品世界に没入していく。映画を観るというのはこの感覚だよな〜と嬉しくなった。映画を観る醍醐味って、リアリティがあるとか、感動があるとか、そういうことじゃないなと改めて実感した。
俳優も良くて、ヴィゴ・モーテンセンは、彼とクローネンバーグのコンビ作品も好きとはいえ、クローネンバーグに期待する作風とはちょっと違うという気持ちが今まであったが、今回はヴィゴ・モーテンセンの怖い顔と初期中期のクローネンバーグの幻想的な世界が融合して、すごく良かった。ラストシーンの『んー、美味い!』の表情とかヴィゴ・モーテンセンの顔面力の効果絶大だった。で、ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワートらのセレブ的な要素がクローネンバーグのアングラ要素をいい意味で中和していたし、クリスティン・スチュワートの観ていて不安を煽るような存在感は悪夢的世界に見事にハマっていた。
臓器が増殖するという設定は、アートの定義やクローネンバーグ自身の身体の衰えなどもテーマとして入っていそうだとか色々深読みが出来そうだし、好きな人は考察するだろうけど、個人的には悪夢的、幻想的な世界観としてそのまま楽しんだ。そんな世界観の中で動きまわる不思議なキャラクターたちを見ているだけでとても至福な時間だった。とくに不気味かつスタイリッシュなドリラーキラーな仕事人コンビは最高だったよ。クローネンバーグは次作も是非SFでやって欲しいな。いや、SFじゃなくても長生きして作品作ってくれるだけでいいか。