「沖縄戦を知事の側から描いた試みは評価したいが、脚本に深みや今に通じるメッセージ性は乏しい」島守の塔 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
沖縄戦を知事の側から描いた試みは評価したいが、脚本に深みや今に通じるメッセージ性は乏しい
五十嵐匠 監督による2022年製作(130分/G)日本映画。
配給:毎日新聞、キューテック、劇場公開日:2022年7月22日。
日本の第二次大戦で、そこに住人も居る唯一の本格的な地上戦である沖縄戦は、自分にとって、とても大きな関心ごとである。
その沖縄戦を、新知事として赴任した島田叡(萩原聖人)を中心に据えて、描いている。覚悟を決めての赴任等、全体的に賛美する様な描かれ方であった。知事受諾に関しては同意できるが、軍からの非合法的な学生である少年少女の戦争動員に同意してしまったことには、沖縄戦の悲惨さを作り出した原因として、許せない気がしている。
島田の世話役を務める県職員(吉岡里帆)を、軍国主義を体現する様なキャラクターに設定したのは、当時の権力者の都合でかたち作られた優等生を具現化していて、とても良かった。当時の教育はとても変であったが、従順に上の言うことに従うことを良しとする今も、それは本質的に変わっていないのでは。
彼女と知事のやりとり等を通じて、命を大切にしないといけないとの当たり前メッセージは良く分かったのだが、その他、沖縄戦を通じてのメッセージや教訓は殆ど自分には伝わらずじまいだった。せっかくの機会だったのに、かなり残念でもあった。沖縄への差別意識、軍人の特権意識、本当に一人一人のためになる教育論、意思決定のあり方、情報や知識の価値等、いろいろ考えられたろうに。
島田知事(萩原)は、密造酒を飲んで作業をさぼろうとする県民に遭遇したとき、一緒に酒を飲んで彼らと踊り、住民たちの気持ちを和らげようとしていた。そして、事あるごとに、「明日天気にしておくれ」という歌詞に希望をこめてか、「てるてる坊主」の歌を歌う。住民に親しまれ、何もしないでの運任せが、彼のモットー?と思ってしまった。
沖縄戦を取り挙げてくれたことは嬉しく思ったが、行った/行おうとした仕事ではなく、こういう良い奴的な描写で、政治家の良し悪しを捉えようとする原案/脚本に、庶民を馬鹿にしている様に感じ、少し嫌悪感を覚えた。
監督五十嵐匠、田村洋三「沖縄の島守―内務官僚かく戦えり―」、脚本五十嵐匠、柏田道夫、プロデューサー川口浩史、撮影釘宮慎治、照明山川英明、録音池田雅樹、 藤丸和徳、整音瀬川徹夫、美術黒瀧きみえ、装飾鈴村高正、衣装大塚満、メイク薩广綾子、編集宮島竜治、視覚効果松本肇、音響効果大河原将、音楽星勝、スクリプター宮下こずゑ、助監督宮崎剛、製作担当花山康大。
出演
島田叡萩原聖人、荒井退造村上淳、比嘉凛吉岡里帆、比嘉由紀池間夏海、榎木孝明、成田浬、水橋研二、比嘉凛(現代)、香川京子、五十嵐匠、脚本五十嵐匠、 柏田道夫、プロデューサー川口浩史、撮影釘宮慎治、照明山川英明、録音池田雅樹、 藤丸和徳、整音瀬川徹夫、美術黒瀧きみえ、装飾鈴村高正、衣装大塚満、メイク薩广綾子、編集宮島竜治、視覚効果松本肇、音響効果大河原将、音楽星勝、スクリプター宮下こずゑ、助監督宮崎剛、製作担当花山康大。