劇場公開日 1990年3月24日

「残酷なまでに静謐な映像詩」霧の中の風景 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 残酷なまでに静謐な映像詩

2025年10月11日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

カワイイ

テオ・アンゲロプロス監督の映画は極端な長回しが特徴で作風もやや難解なので人を選ぶ作品であり、万人にはお勧めしがたいが合う人には合う、ハマる人にはハマる映画だと言える。タイトルや映画会社の名前も出ないまま突然始まるし、ラストもエンドロールも何もなく「終わり」とも出ず唐突にバッサリ終わるので、最初に観た時は映写技師のミスかと思ってびっくりした記憶がある。映写技師のミスという可能性の無いデジタル上映が普通となった今では懐かしい思い出だ。唐突に始まり唐突に終わることによって映画と現実の壁を無くし、時間軸や空間をも解体し、“映画”という枠そのものを解体しようとする作風。それがアンゲロプロスの映画だ。

ただ本作は『旅芸人の記録』『アレクサンダー大王』『シテール島への船出』などに比べるとかなり観やすい作品で、父を探しに国境を越えた旅に出る幼い姉弟を主人公とした、やや寓話的なドラマ映画となっている。あるいは詩的な映画と言っても良い。詩的とか寓話的といってもファンタジーではなく非常にリアルな作風でもあり、姉弟に降りかかる世界の残酷さをも描き出している。特に姉がトラックの荷台で……の長回しシーンが本当にすごい。そのような世界の残酷さを描きつつも、最後には寓話的な救いが用意されているところも良かった。主演の姉弟役の子たちが素晴らしかったです。

バラージ