「この絆を忘れはしない」モガディシュ 脱出までの14日間 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
この絆を忘れはしない
さすが韓国映画らしい見応えあるポリティカル・サスペンスの力作であった。
自国の歴史や事件を題材に、社会派テーマとメッセージ性とエンタメ性が見事に融合。『タクシー運転手』もそうだが、韓国映画はこういう作品の作りが非常に巧い。ここが、韓国映画と日本映画の違い。日本映画もこういう作品を作らねばならない。
ちゃんと作品も大ヒット。韓国国内では2021年のNo.1ヒット。国内映画賞も受賞。米アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品にも選出。クオリティーも保証付き。
見て良かったと自信を持って思える作品だが、最初はなかなか取っ付き難い。劇中で説明はあるが、関わるそれぞれの国や背景など把握してから見るのがいいかもしれない。
多少予備知識を入れ、いざ話が始まると、後はもう一気に引き込まれる。
1991年、ソマリアの首都モガディシュに、韓国と北朝鮮の外交官がいた。
目的は、国連加盟。多くの投票権を持つアフリカ諸国で、ロビー活動に躍起になっていた。
そんな時、政府軍と反乱軍の内戦が勃発。巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使たちは…。
ソマリアの内戦や事情を描いた作品には、『ブラックホーク・ダウン』や『キャプテン・フィリップス』などがある。
銃を持ったゲリラ兵たちが襲撃。中には少年兵も。
一刻も早く脱出しなければ命はない。
内戦やクーデターからの脱出劇も映画のジャンルの一つ。『アルゴ』や『クーデター』などなど。
それらを描きつつ、本作の中軸となっているのは、製作国ならではのテーマ。即ち、
韓国と北朝鮮。
言うまでもなく、かつて一つの国だった韓国と北朝鮮。
朝鮮戦争以降も緊迫した睨み合いは今も続く。
このモガディシュでのロビー活動でも火花バチバチ。相手を出し抜こうとしたり、妨害したり。
訳ありの歴史の韓国と北朝鮮。分かり合えたり、協力し合える筈がない。
が…
暴徒により北朝鮮の大使館が占拠。大使らは命からがら逃げ出すも、行き場が無い。
そこで助けを求めたのは、韓国大使館。
ロビー活動でピリピリムードの上、南の奴らに助けを求めるなんて、祖国に知られたら…。
だが、この現状、人の命には代えられない。子供もいる。
何も南と和解しようって言うんじゃない。隙あらば、利用すればいい。
それは韓国側も同じ。助ける義理など無い。
しかし、ここで助けるフリをすれば…。貸しにもなり、ロビー活動をする上で上手になるかもしれない。それに、北の奴らを転向させる事が出来たら…。
それぞれの思惑持って、韓国と北朝鮮が一つ屋根の下に…。
両大使は表面上は平静に接し合う。
が、若い参事官は何かと対立。
外は緊迫、中も険悪。こりゃ生きた心地がしない…。
そんな関係が少し緩和されたのが、夕食時。
韓国側が出した料理に当初は手を付けない北朝鮮側。食べ物の中に…警戒。
それを食べてみせる韓国大使。
安全だと知り、北朝鮮側も食べ始める。
同じ物を取ろうとして、気まずく譲り合ったり。
まだぎこちないけど、ひと時の和やかムード。
こんな機会は稀有。対話する両大使。
お互いに否や妨害した事などを認め合う。
両国の歴史、事情などを鑑みれば、仕方ない事かもしれない。
が、今は対立はいったん忘れて。何としても生き残り、脱出する。
脱出法を模索。それぞれ当てを探す。
韓国側に当てが。ケニアへの乗れる輸送機が見つかった。
が、乗れるのは韓国のみ。ケニアと北朝鮮は国交ナシ。
韓国大使は北朝鮮の人たちが転向したとして、承諾させる。
一方の北朝鮮側も当てを探していた。韓国の人たちと共に。
参事官はまだ不満気だが、両大使は…。
車を手配し、全員を乗せて空港に向かう。
道中あちこちに、暴徒や銃弾が飛び交う。
本などで車の防弾を強くしたとは言え、その中を行かなければならない。
おそらく、最大の危機…。
危険も覚悟で出発。
順調に進むが、白旗が仇となって銃撃。
銃撃の嵐と追撃。街中を突っ切る!
本作唯一のアクション・シーンはここぐらいなのだが、スリリングで臨場感あるカー・チェイスとなっており、きちんと見せ場を設ける作りが素晴らしい。
何とかイタリア大使館領域に逃げ込む。
助かったと思いきや、あの銃弾の中、遂に犠牲者が…。
当初はお互いの安全などどうでも良かった。相手を見殺しにしても、殺されても。我が国には関係ない。
が、異国での孤立無援の状況下。協力し合い、生死を共に。
もう他人事ではない。
この悲しみ、悔しさ…。
結果的には助かり、脱出にも成功し、ハッピーエンド。
しかし、この切なさは…。
別れ。
空港には両国のお偉方が出迎えている。
そんな場で、協力し合った事が知られたら、もってのほか。
我々の絆は知られてはならない。この機内まで。
機を一歩でも降りたら、全くの他人。睨み合う国同士。
両国の間には何も無かった。一切関わりも無かった。
機内で交わす両国の別れが切ない。
それぞれお偉方から問い詰められても、黙りを貫き通す。
両大使。車に乗る寸前、今一度振り向こうとするが…、思い留まる。
何かの縁で彼らがまた会う機会はあるのだろうか…?
ひょっとしたら、これっきり…。
我々だけが知っている。それを忘れはしない。
韓国と北朝鮮。
それぞれの歴史や事情で、今すぐは無理かもしれない。
が、こうして分かり合える人たちがいたのならば…。
国と国同士だって、きっと…。
いつの日かーーー。