「家族間のいざこざを最大限に拡大解釈する試み。」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
家族間のいざこざを最大限に拡大解釈する試み。
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親子のいざこざを描くためには、これだけの大風呂敷が必要である!というダニエルズの居直りが素晴らしい。家父長制や古い文化の継承、親に認められたいというコンプレックス、クイアへの不寛容などなど、この家族もさまざまな問題をはらんでいるが、ひとつひとつは決して特殊なものではない。しかし当事者にとっての苦悩は、他人の目には取るに足らなくても、全マルチバースの存亡と同じくらいのレベルでデカくて深い。正直、所見のときは王道の家族ドラマとしてまとまっているので、ダニエルズのメジャー化戦略かと疑ってしまったが、見返すほどに真摯さや細やかな配慮が伝わってきて、ケツネタに代表される悪ふざけメインの作品ではない。
カットされた未公開シーンを見ると、ダニエルズが完成形に落とし込むためにどれだけ大鉈を振るったのかがわかる。ハチャメチャでやりたい放題に見えるかも知れないが、編集段階で考え抜き、物語を伝える上でノイズになるものを慎重に排除している。映画は完成形で判断すればいいが、製作の過程を知ると、ダニエルズがこの物語にいかに真剣に向き合ったかがわかる気がして、作品のことがさらに好きになった。
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