「黒人ばかりかまってちゃんじゃないYO!」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
黒人ばかりかまってちゃんじゃないYO!
まずはキー・ホイおめでとう。
ジャッキーの代役で、ジャッキーみたいな立ち回りで、キーがオスカー獲ったら、これまでのジャッキーの功績をどこで称えるのか、ともジャッキーブチギレ!とも密かにニヤニヤしていたが、本件においては、心が広いようで今のところ、そんな喜劇は起こっていない。
そんなこんなの、時代にドンピシャでオスカーを総ざらいした、
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
・・・
本作の監督ダニエルズの前作「スイス・アーミー・マン」については、レビューにある通り、やってみれば「少しも奇抜でない」設定と「自分さえよければそれでいい」発奮(放屁)ストーリーが、オタク臭が充満した、(ある意味ものすごいパワー)映画で、連れの評価を尻目にこき下ろした。
で本作はというと、おんなじである。
ただし、オタク臭については、とても上手く誤魔化す、紛れることに成功している。
それが、アジア人俳優の映画という点。
アジア人俳優のこれまでの待遇と、MCUが全くうまくいっていないことを鼻で笑う「マルチユニバース」の舞台設定。アジア人もハリウッド「大作っぽい」設定の映画が作れるよ、ということを、猛烈にアピールしている。
ちょうどいい具合に、「パラサイト」「ミナリ」「ドライブ・マイ・カー」と時代の後押しもある。
とにかく、うまいやり方だ。そしてここぞ、というタイミング。映画は時代とともに、ということがよくわかる。
もっというと、この映画の最大のアピールポイントは
「黒人ばっかりかまってちゃんじゃなく、アジア人もかまってYO!(かまってあげてYO!」
ということである。
なかなか気づかないが、実は本作、黒人が全くといって出ていない。
・・・
こんな人生ではなかった。
親ガチャで外れを引いた。
そういえばちょっと前に観たような、シン・エヴァの親子喧嘩を丸丸パクって
青臭い説教臭さを「家族愛」と感動するのもかまわないが、This is the Lifeとか
I Love Youとか、声高にアピールされても、げっぷがでるほどで、そこはしらけてしまう。
他のユニバースからの力の拝借、バカをやればやるほど、力が得られる。
人からバカだと思われてもいいんだよ、「他のユニバース」=「選択していなかったが本来もち得た能力」と、オタク臭爆発の設定は健在だが、その説教臭い「家族愛」。
毒と毒と感じる人もいれば、中和とみるか、ごまかされているか、が各人の評価、ということだろう。
これが「アジア人俳優」の真の評価だと言わんばかりのメタ構造が相まって、コッテコテに。
バカバカしさのバリエーション、とにかくぶっこんでおけばよいだろう、というわけではなく、結構緻密な編集には頭が下がる。見せ方は前作に比べ、大幅に上手くなっている。
しかし本作、それ以上に、これ以上ないタイミングと条件で作られた映画ということで、作品の価値そのものよりも「目撃者」として、今この瞬間に観るべき映画であることは間違いない。
追記
余り語られていないラストについて
この世界の主人公は、家族含め、円満に幸せになり、全ユニバースで最も最低な存在ではなくなった。
他のユニバースから「ほかの最低の主人公」に力を貸した(拝借された)のか、
それとも、
夢落ちなのか(オール・アット・ワンス、なだけに)。
(ニヤニヤ)