「◇脱構築されたマルチバース不思議世界」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス Hisatomo Mizuuchiさんの映画レビュー(感想・評価)
◇脱構築されたマルチバース不思議世界
物語は、鏡を使った凝ったカメラワークから始まります。一転、雑然とした生活臭漂う室内、続いてよくあるオフィス風景、ジャッキーチェン風のカンフーアクション。前半の展開では、香港映画の勧善懲悪、予定調和的なエンタメ作品か、と油断して観てました。
やられました。前半の凡庸さはマルチバースに対する平凡な日常の姿というフェイクだったのです。但し「宇宙の夫」という合わせ鏡的な展開までは、よくある二重世界構造の手法です。
ここに、難しい年頃の娘、要介護の義父、税務署の女、それぞれがそれぞれのマルチバースを展開し始めます。それぞれの映像世界観はミュージック・ビデオのように煌びやかでテンポも抜群です。
中盤以降は加速度的に世界が切り替わり、辻褄を合わせようとしてしまう観る側の思考そのものを嘲笑うかのようです。
緩いテーマは家族。母→娘の相似形の時間の流れ、日常生活の常識の中にはまり込んでしまった母親にとっては、家庭から出て行こうとする娘の行動そのものが異次元に感じてしまう。一方で、自分自身にも駆け落ちした過去があり、そこには、若くて愛に溢れた夫の姿を見たりします。
この映画の世界観そのものが、今見ているスマホの世界に似ている気がして、ゾッとしてしまいました。カレンダーを見ようと開いたスマホの画面に現れたSNSにそのまんま繋がって画面をスクロールし始めたり、何かを調べようと立ち上げた検索画面に現れる広告から買物を始めてみたり。並列的にとめどなく広がる世界が無限に広がっている感覚の病理性。
そんなスマホ脳🧠の人間たちの人間関係とは、分裂症の集団みたいなもの。それぞれの断片的な関心事に基づいた関係が、無限に混沌を積み重ねたような空虚な社会を形成しているのかもしれません。
この馬鹿馬鹿しい世界観の映画を観ながら、ふと我に返る時のホラー。なかなか侮れない世界観でした。