「1度目の観賞は「何この世界観!」と、次から次へと展開する世界とストーリーの波に乗ることに精一杯でした。けたたましいセリフの応酬も、生理的に受け容れがたかったのです。」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
1度目の観賞は「何この世界観!」と、次から次へと展開する世界とストーリーの波に乗ることに精一杯でした。けたたましいセリフの応酬も、生理的に受け容れがたかったのです。
映画はまだまだ、いろんなことができるんだとつくづく思わされました。米国のダニエルズ監督による、セカイ系SFでアクションで家族物語でコメディー。ギッシリ詰まったあんこが色変、味変を繰り返してシッポまで。すごいものを見た気になる怪作です。
これらが掛け合わされて生まれたのは、何とも奇怪なSFクンフーアクションコメディー。下品で珍妙でバカバカしいですが、家族愛が感動的?な良作でもありました。我々の宇宙とは別の宇宙が無限に存在するという「マルチバース」がテーマです。それ自体は、いまはやりですが、米国でA24最大のヒットとなった上、今年のアカデミー賞で最多の10部門11ノミネートには驚きました。本来は一部ファンだけに偏愛されるようなカルト作が、なぜ広く受け入れられたのでしょうか?
コインランドリー店を営む中国移民エヴリン(ミシェル・ヨー)は、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)が突然、「自分は並行宇宙から来たアルファ・ウェイモンド」と言い出して、世界を破滅から救えるのは君だけと告げられます。別宇宙の自分の能力を使える技術「バース・ジャンプ」を駆使し、エヴリンは強大な力を持つジョブ・トゥパキと対決するのです。
エヴリンは迫り来るジョブ・トゥパキと戦うために、カンフーを究めたアクション俳優になったり鉄板焼きの料理人になったり盲目の歌手になったり指先がソーセージになったりします。目まぐるしく場面が変わり、しかもその映像がいちいちクールでした。
元々アクション俳優だったヨー。還暦を過ぎたヨーのアクションは若い頃の激しさはありませんでしたが、カメラの技巧とCGの力も借りてかっこよさ倍増。美しくリズミカルな動きは衰えていませんでした。その身体性がドタバタ喜劇の軽快なテンポを生むのです。 どこを切ってもヨーが顔を出すヨーの映画でしたが、金太郎アメと違って様々な顔を見せるのが見事です。別宇宙とリンクする方法は「変な行動」を取ることで、そこまでやるかというほどコメディー演技もたっぷり見せます。
特にバース・ジャンプのためには思い切りバカげた行動が必要とされています。そこで絶体絶命の状況では、踊り出したりハエを鼻に吸い込んだりして笑わせるのです。そして物語は、エヴリンがアイデンティティーを問い直す内省へと向かってまたびっくり。
支離滅裂なのに空中分解することなく、しっかりエヴリンに感情移入させてくれました。痛快でおかしくて、しんみりさせて、予想もつかない地点に着地する離れ業。いやはや大忙しで、まさにタイトル通り、すべてのことがあらゆる場所で同時に起きるのです。
無限の宇宙で展開する壮大な戦いは、実は家族内のいさかいの反映なのかもしれません。はたまた苦労して納税申告に赴いたのに全ての経費を否定された国税庁の監察官への恨み・辛みを長々と描いた作品なのかもしれません。
但しアジア系移民の家族の物語は、分断の時代に団結の尊さを訴えるといえます。マルチバースというテーマもデジタル時代の実感とマッチします。それらが受け入れられた理由ではあるのでしょう。「マルチ」に活躍する女優ヨーの集大成にもなりました。
でも1度目の観賞は「何この世界観!」と、次から次へと展開する世界とストーリーの波に乗ることに精一杯でした。けたたましいセリフの応酬も、生理的に売れ入れがたかったのです。思考フル回転で物語を理解しようとする、それこそがこの映画の楽しみ方なのかもしれません。なので、ある程度理解して観賞する2度目、3度目は、また違う発見もあるでしょう!誰か気の利いたネタバレ評があれば読んでみたいものです。
ぼうっと観ていると置いていかれてしまう可能性もあるので、ぜひ前のめりで(^^ゞ