「壮大でハチャメチャなホラ話(でもないか)を描きながら、生活に追われ疲れて自分の居場所がなく自分が何者でもないと思っている人々に希望を与える快作。レッツ・ゴー・トゥ・ザ・シアター!」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大でハチャメチャなホラ話(でもないか)を描きながら、生活に追われ疲れて自分の居場所がなく自分が何者でもないと思っている人々に希望を与える快作。レッツ・ゴー・トゥ・ザ・シアター!
①ミッシェル・ヨー適役熱演。冒頭の生活に疲れた中国系アメリカ人のオバチャンから、終盤の凛々しいお母さん像まで、間に京劇風メイクの歌手・カンフーの達人・華やかなスター女優等を挟みながら演じられるのは彼女しかいないだろうね。
②「あたしゃ、ここで何してるんだろ、このままで人生終わるのかいな」と思っていたオバチャンが自分の可能性や人生の意味(や周りの人々の大切さ)を見つけて再び前を向いて歩きだす話とも、心が離れてしまっていた母娘が絆を取り戻す話とも取れる。
③『アントマン&ワスプ:クワントマニア』(映画は残念な出来だったけど)を観て“量子力学をちょっとは勉強しとかなくちゃ”と思って二冊ばかり関連の本(寝る前に読むと直ぐ眠れます…オススメ)を読んで臨んだのでマルチバースのことはそれほど奇想天外だとは思わなくなった(それでも『クワントマニア』に対する評価は変わらないけど)。
④「ナッシング・ノーウェア・オール・アット・ワンス」⇔「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」なんだね。
このユニバースで何者にもなれなかったエブリンだから何者にもなれるというロジックにした脚本が良い。
同時に無数の平行宇宙(マルチバース)が存在していて、それぞれのユニバースに違う人生を送る自分がいるとしても、“いま、この自分が生きていて愛する人々がいるユニバースが何よりも大事”というところに落としどころを持ってきたのが大変心暖まる。
⑥ただ、笑わせてくれる場面も多いが(生物が発生しなかったユニババースで石となった母娘が何故か会話できるシーンも笑えたし、指がソーセージになったユニバースでミッシェル・ヨーとジャミー・リー・カーティスがレズビアンの関係というのも可笑しくも心暖かい。
一方、やりすぎと下品で笑えないシーンも幾つかあるのも確か。
1)ジョブ・トゥパキが長~いぺ⚪スをムチ代わりにするところとか
2)ア⚪スに突起物を突っ込もうと躍起になっている敵を“そうはさせじ”と攻防するシーンは長いし、とうとう⚪の穴に突っ込まれた物を抜いたのは良いが嗅ぐな!
⑦オチは人情話と分かっていても、そこまで飽かせずに引っ張り最後にホロッとさせるのは良質のアメリカ映画は上手い。
本作でも、最初エブリンがアルファ・ウェイモンドの言うことを信じられず、信じるようになっても“なんでアタシがせにゃならん?”と思うのも普通の人間なら当たり。それが、娘が絡んでいる・娘を救わにゃならん、とわかった途端に“アタシやる!”となる流れも自然で宜しい。そういう意味で脚本と演出は上手い。
⑧ミッシェル・ヨー以外のキャストもおしなべて好演。ジョイ役の子も良かったが、なんといっても『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のキー・ホイ・クァン(すっかりオッサンになってしまったのは月日の流れを感じてしまった)が演じるウェイモンド、カッコいいアルファ・レイモンドではなく、タキシード姿のウェイモンドでもなく、冴えないけれどもエブリンとジョイとを見守るウェイモンドの優しく暖かい存在感がミッシェル・ヨーに負けないくらいの存在感。