「純文学のような世界」あなたの顔の前に じーたらさんの映画レビュー(感想・評価)
純文学のような世界
ホン・サンス独特の長回しと撮影方法は健在で、そこに一人の女性の人生を集約したような1日を描いており、シンプル且つ、ホン・サンスにしてはわかりやすい作品だった。
アメリカ在住で、かつては演技の仕事を少し(?)していたサンオクは様々な想いを胸に帰国し、そこで会った人たちとの会話が中心だが、これが文学のように言葉が心地よく流れてくる。少しずつ、サンオクの心の中が表れだし、終盤には彼女の現状がはっきりと輪郭化されていく様はホン・サンス映画の中ではかなり観る側に優しい描き方だった。
たとえて言うなら、絵画の中心にフォーカスされたものでまず観る側を引き寄せ、徐々にその背景や側面を見せていくような手法と言えるだろうか。それが、ズームイン・ズームアウトの撮影技法とマッチしているように見えた。
とはいえ、やはりこういった作品は役者の力量に尽きるような気がする。いくらこのような特殊な技法の映画を作ったとしても、役者の腕がなければ、ただの実験ムービーに終わってしまうだろう。
サンオク役のイ・ヘヨン氏と映画監督役のクォン・ヘヒョ氏の会話のシーンは、あまりにも自然に見えて素晴らしかった。
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