劇場公開日 2022年6月24日

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「タバコを吸う人と吸わない人」あなたの顔の前に shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0タバコを吸う人と吸わない人

2022年6月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

まずは「素晴らしい」の一言。
個人的には『逃げる女』がベストワンでしたが、早くも記録が塗り替えられました。
(『イントロダクション』見たら、また塗り替えられたりして。同時に公開なんてもったいない。)

ホン・サンス監督の会話劇はミステリやサスペンスを見ている時と同じ興奮があります。
散りばめられたヒントから人物像が浮かび上がり、対話を重ねるうちに過去の関係が炙り出される。
そして、お互いが影響しあって、刻一刻変化する感情。
対話を通して、新しい関係に上書きされる瞬間に立ち会う臨場感!

ビタースイートな大人の相合傘が泣けました。
美しくて、切なくて、優しくて。
成瀬巳喜男を彷彿とさせる展開に、ラストシーンがより一層際立ってきます。

この世はタバコを吸う人と吸わない人に分けられる。
喫煙者の肩身が狭いご時世です。
うちの会社なんて建物の中には喫煙所が無く、エントランスからゆうに500mはある屋外に一ヶ所のみ。
高層階からだと降りるだけでも一苦労。
しかも屋根もない吹きっさらし。
劣悪な環境に追いやられるのと反比例して、どんどんあがるタバコの値段。
同僚の視線を背中に受けつつ、確実に有害な物質を体に取り込む為に、雨にも負けず風にも負けず。
時代に逆行して、それでもタバコを吸う覚悟。
韓国のタバコ事情は知りませんが、この映画の中では“そちら側”を選択した生き様に見えました。
喫煙は弱さや依存に映るかもしれませんが、誰しもが何かしらに依存しているのではないでしょうか?
タバコは会話の間を持たせてくれる。
初対面の人との距離を縮めるコミニュケーションツールだった時代もあったのですよ。
そして何よりタバコは、深いため息をつかせてくれる。
将来の保身(健康)を捨てて、今この瞬間の欲情に正直に生きる。
たとえ周りの者を不幸にしてでも。(副流煙)
そのかわり、傷ついても誰のせいにも出来ない。
今の時代にそんな生き方を選んだ同志たちに見えました。
失うものも多いけれど、今この瞬間の真実と美しさを知っている。

あと、タバコって銘柄でその人をなんとなく判断できますよね。
とくに監督のタバコが人となりを表していて見事でした。
あぁ。ホン・サンス監督って、本当に優しくて残酷で、ロマンチックで辛辣で…大好きだぁ!

shiron