ロストケアのレビュー・感想・評価
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善悪で割り切れない哀しさ
現実に存在している介護問題。ワンオペ、ヤングケアラー、または高齢者による高齢者の介護。その果てに殺人事件が起きているニュースを目にすることがある。非常に現実感があり、自分の親の事を考えずにはいられなかった。結果的に大量殺人であり大罪ではあるが、その最初の殺人についての背景があまりに切なくて、正当化は出来ないが、理解し寄り添いたいと誰もが想うのではないか。
柄本明と松山ケンイチの親子のシーンがあまりに凄まじく、号泣しそうになるのを堪えたほど。この国で助けが必要な人を見過ごす、孤立させて助けない、そんな状況が無くなりますようにと、強く願うばかり。様々な角度から現代社会の問題提議がされている作品。
起こりうるから怖いのか
鏡と十字架
前田哲監督。あまり意識してなかったのだけど、いいですね。「陽気なギャングが地球を回す」「こんな夜更けにバナナかよ」「そして、バトンは渡された」など、気がつけば結構観てました。社会課題を絡めたテーマを入れてさらりと、時にはコミカルに描いて、エンタメとして成立させていて、すんなり内容が入ってくるのが心地よい。
今回は一転、高齢者介護の課題をシリアスなトーンで深掘りして、見事にまとめ上げた。介護の重荷にさらされた家族は、要介護者の死により救われるのか。正面からこの問いに取り組んでいて、観ていて複雑な感情が駆け巡る。
松山ケンイチと長澤まさみの二人は、十年来の推し俳優。その二人が初共演で、水と油の対話劇を見せるのだから、それだけで感涙ものだ。検事室での戦いは、両者譲らず、お見事! 狂信的だが、冷静な連続殺人者である斯波(松山ケンイチ)と、斬波の悪を断罪しようと詰める検事の大友(長澤まさみ)。それぞれの過去が絡みながら、事件の本質が見えて来る展開。
まあ、見せ方として、舌戦手に汗握る、という感じではないのだけど、印象的な画面が展開されて、じっくりと物語が、展開されていく。その中で、特に2つの構成が印象に残った。
1つ目は鏡や鏡面など。磨かれたテーブルに映る大友の姿と実像の大友が、表面と内面の相反を感じさせたり、4つの鏡に映し出された大友が、そこから不穏な空気を暗示していたりと、強く記憶に残る。
2つ目が十字架。タイトルの赤い十字架が何を暗示しているのか気になったが、終盤の斬波の部屋で佇む大友から引いて壁に、窓の影として映る十字架。膝の上で泣き崩れる大友の母が首から下げている小さな十字架。
この鏡と十字架が、本音と建前や揺れる正義など、全体のテーマを伝えるモチーフとして、物語に芯を与えていたように感じた。
「沈黙」などのキリスト教の正義への問いや「PLAN75」で提示された死の選択に追い立てられる社会など、考えさせられる作品たちと同様、何度も描かれてきたテーマではあるものの、タブーとされがちな死と救い(幸せ)に対する考え方について、相対する機会を与えてくれる良い作品だ。
身につまされる
モヤモヤが残るラスト
認知症だった母が亡くなるまで、認知症と診断されてから2年ちょっとだったと思う。一人暮らしだったからかなり大変になるだろうなと思っていたら、脳梗塞が併発した後、転院を繰り返すうちに亡くなったので介護のつらさは感じることがなかった。「安全地帯」から出ることなく親の介護は終了したということだ。
介護職でありながら、担当する高齢者を殺害した犯人と、事件を担当した検事の話。いくつかの家族の介護が語られるのだが、これがまたかなり過酷。開放されたい、救われたいと思う家族の気持ちはわかる。でもそういう映画なのか?と思ってしまう。
あの話の流れだと、犯人の斯波がなぜ42人も殺した(彼の言葉でいうと救ってあげた)のかがメインテーマに思える。松山ケンイチ、長澤まさみ、柄本明、藤田弓子といった俳優陣の演技が素晴らしいので、介護の過酷な現実を知らしめる効果はある。ただ、斯波が42人も殺害することになった動機が最後に明らかになるわけではなかった。むしろ、だから?とモヤモヤしてしまったくらいだ。
いや、このモヤモヤを残すための映画だとしたらなかなか効果的だった。好きなわけではないが。
狂気とは言えない社会
多数の殺人がクローズアップされ宣伝効果が抜群の本作品でしたが視点は違っていたと思いました。
法で裁ける罪を追い詰めれば詰める程、救いと主張して行く斯波の姿は神ってる様に感じた。
現代社会の在宅介護の問題提起と裁判の行方を委ねてるところも斬新で映画の本質を突いていると思いました。
どちらかと言えば、自分は
『殺してほしい』柄本明の立場なら、頼むから殺して欲しいっ、て言うかもしれない。これからの自分の老後問題《安楽死制度》あっていい、そんな世の中になっていくのでは?と考えている。わりと淡々と悲壮感もなく、老いや衰えを受け入れていこうと思う。救われた人多いよね?と私は思う。だから『人殺し!お父さんを返せ』あの時のマツケンの感情ってどんなだろう。『正しいことした』と揺るぎなかった訳だから。原作読んで其々の感情を掘ってみたいと思う。
リアルすぎて、辛い
凄まじい説得力
辛い現実
松山ケンイチさんの苦悩が自分の未来に見えました
柄本明さんの迫真の演技が評価を得ているようですが、まだ子の側の私には親がこんな状況になったら、親にこんなことを言われたら、と考えさせられ、松山ケンイチさんの笑顔にも苦しみの表情にも涙が止まりませんでした。最後の最後、親側の気持ちになって「子どもを巻き込んではいけない」と強く思うとともに、やり切れない気持ちになりました。総理や議員の皆さんにもぜひ観ていただきたい映画です。
八方ふさがりの現実
単なるサスペンスにとどまらない、日本の制度への疑問を呈した作品でした。
様々な貧困事情~非正規雇用、シングルマザー、会社倒産~などなどを抱えている中で、親が認知症を伴う重度の要介護という暗黒の穴に落ち込んだら?
介護施設は抽選、または高額な費用を伴い、入れることができず。
目を離すと徘徊、事故、万引きなどを起こして、訴えられたり責任論で中傷されたり。
同居すれば当の親から、家族は暴力を受け。
親の監視のため働くことができないが、さりとて役所は生活保護を認めない。
子は食うこともできないほど追い詰められ、八方塞がりの無限地獄に陥った中で、家族はどうしたらいいのか?
健康も財力も今は大丈夫とたかを括り、自分が老化したり病気や怪我で働けなくなったりしたときを想像もせず、安全地帯から自己責任論を振りかざすこの国の連中への、問題提起こそがこの作品の肝なのかなと思いました。
見る人の親との関係性で感じ方が変わるかも。演技は凄い
社会問題として考えさせられる
真剣に見れば見るほど、いまの社会の貧富の差や、生きるとはどういうことなのか、色んなことを考えさせられた。
自分の努力もあっただろうが、運よく人並みの生活をしていると、それができていない人たちは、それまでの自分の生活を反映した今であるから”自己責任”でかたづけてしまう。社会としてそれでいいのだろうか?と映画を通して感じた。
介護される側になった時、夢も希望もない自分の現状を、生きる価値がないと考えしまっていいのだろうか?もちろん他人から価値がないと絶対に言えないが。
迫真の演技に引き込まれて、その迫力に圧倒された。現実に起きる事件の背景は、これ以上に深く悲しいことがたくさんある。自分に降りかからなければいいんだと、どこかで思いがちであるが、この映画を通して、見て見ぬふりをしない優しい自分でありたいと思うことができた。
見につまされる
ナメてました
正直この作品、劇場で観ようか観まいか迷っていました。
「この(前田)監督の作品の傾向は・・・」とか「この手の題材は・・・」とかいろいろ理由をつけてみたものの、結局は逃げられない気がしたのです。で、鑑賞した感想ですが、ちょっと驚きましたね、ナメてました。
私、原作は未読です。ただ、本であればこの「攻めた感じ」もよくありますが、これを映画で、しかも松山ケンイチ&長澤まさみという主演でやるプロデューサー有重陽一氏、あっぱれです。
そして実際、その意気込みに前田監督、そして脚本の龍居由佳里さんが見事に応えています。この手の内容にありがちな「欺瞞すら感じてしまう設定」や「過剰でノイズにすらなり兼ねない演出」は一切ありません。
ちなみに私自身はこの作品、泣けるなどの感情は全くありませんでした。しかしながら、これだけ納得がいって、自分の体験や思いを投影しながら観ると、まるで「代弁」とすら感じてしまう内容で思わず唸ります。とは言え、この作品に対して「全く以て同意できない」という意見も理解できます。いずれにしても大事なことは、(観たくないものからも)目を逸らさないこと。そして倫理という概念で単純に「タブー」としてしまうことによって、残酷な立場を強いられる人もいる不条理さを知り、まずは議題に挙げなければいけないことだと感じます。
そしてまた、各登場人物それぞれのキャスティングと、その役を演じる役者の皆さん素晴らしいです。特に私の印象に残った4名。
まずは何と言っても松山ケンイチさん。相変わらず、演じる役に合わせて感じさせる「温度感」が素晴らしい。今作の斯波役では、彼の流す「涙の温かさ」すら感じてきそうで、対する大友検事(長澤まさみ)を追い詰め、そして・・・すみません、これ以上は言えません。あとは作品を観て皆さんが感じてください。
そして、斯波の父・正作役の柄本明さん。この方のモンスターぶりも言わずもがなですが、今作はまた輪をかけて凄みがあり、この作品に違和感を感じさせない彼の演技こそが何より、私を作品に惹き込ませた要因と思わせてくれます。
さらには、坂井真紀さん。これくらいの年齢層の女性俳優の配役には割と「トレンド」みたいなものを感じますが、最近は特に坂井さんな気がします。まぁ上手ですよね。安心感がある。素晴らしい。そして、その対としての役・春山を演じる(ずんの)やすさん。もう、ナイスキャスティングですね。ハマりすぎてて演技力以上のものを感じ、思わず羽村(坂井)さんに幸せを願ってやまざるを得ません。
最後に一つ、いろんな意味で斯波に影響されまくる若者・由紀(加藤菜津)は意外に興味深い存在でしたね。彼女も違った意味で救いが必要な一人です。でも正直、私には救い難い存在ですね、、いやはや。。
自分の身内(父母夫)の介護と、その後介護福祉士として働いていたので...
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