ロストケアのレビュー・感想・評価
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俳優柄本明の苦悶の演技が強烈な印象
もっとも印象を受けたのは、俳優柄本明が苦悶の表情の中で「殺してくれ」と絞り出すような声で息子(松山ケンイチ)に告げる場面だ。この二人の間にある空気感こそ、この映画がテーマにしているものに違いないと思う。
お互いに疲れ果てている。父の介護のために仕事を辞め、生活基盤を失い、行政にも突き放され、社会との繋がりも次第に消えて絶望の穴に落ちる。終わりが見えない介護地獄の苦しみが伝わってくる。また、当事者である父もかすかな意識の中で状況を理解しており、「もう、いいよ」という意思を発するのだろう。
おそらく、これと同様の事態がそれぞれの事件現場で存在して、そのために彼は「ロストケア」を行った。淡々と。しかし、たとえ似たような状況があったとしても、結果の受け止め方はそれぞれに異なるということも作品で描かれていた。当然である。
映画は冒頭、孤独死の凄惨な現場検証の場面から始まった。これもかなりインパクトがあった。そして、最後の場面で家族に迷惑をかけまいとして、自ら高齢者施設に入った女性の寂しげな表情が映った。この冒頭と最後の事例は、この事件を立件した検事に関係する人間のものなのだが、全体として物語の作り方として面白いと思った。脚本が素晴らしい。
どこで最後を迎えるのか、家族の関わり方はどうあるべきなのか。最終的には当事者、家族が決めるべき問題なのだろうが、、それをサポートする社会的仕組みの充実を切に願う。
日本の課題
どうすればよかったか?
介護の問題は直接関わった経験がある方々と私のように直接関わったことはない者(映画の中の言い方で言えば安全地帯にいて穴に落ちなかった者)とでは感じ方は全く違うのだと思う。
だが、映画は父親に対する嘱託殺人も含め介護に苦しむ人々を「救った」と論ずる松山ケンイチ側にたつシーンが多く正解を見えにくくしているが、42人の老人を殺したことは大罪であり極刑以外に判断の方法はあり得ない。長澤まさみは自身の父親を見殺しにした事実に苛まれるがそれは罪ではない。母親に感謝し、しっかり寄り添っていけばよいのだと思う。
私は昨年から年金生活をしている。「敵」の長塚京三ではないが、僅かな年金と小遣い程度の配当では生活は賄えないので蓄えを取り崩し、それが尽きた時がXディだと思っている。
年金生活に入ると健康保険(任意継続でも国民健康保険でも)の支払い、前年の年収に対する住民税の支払い、介護保険料の増額やら蓄えを一気に持っていかれる。こんなんじゃXディは予定より早く来そうだ。映画でも柄本明の年金は月僅か7万円だし、働けなくなった松山ケンイチが生活保護を申請しても却下され、万引きした綾戸智恵は3食が食べれる刑務所に入れてくれと懇願する。これらは、今の日本の現実であり、自分で何とかしないと生きていくことすらままならない。
超高齢化社会を迎えている日本。政治も行政も明らかに行き詰まっている。
簡単にその解は見つからないのかもしれないが、変えれるのは政治とお金をまわす経済である。
真面目に生きてきて、何らかの形で日本を支えてきた人々が、年をとってもまともな生活をしていける。そんな当たり前の世の中にしてもらいたい。
介護の現実
認知機能が悪化した方たちは元に戻ることもなく、特に家族は大変な思いで介護している事も少なくない。
認知機能が低下すると、部屋で糞便を漏らし自分の便を触りあちこちに付け、色々な物を口に入れ、昼夜問わず独語や強いこだわりを見せて指示が入らない。
介護施設は入所するのも高額で、やむを得ず自宅療養を強いられ家族は疲弊していく。
終わりの見えない介護。「僕の殺人は救いだった」本人以外に家族も安堵が見えたのではないかと。
当の本人も死にたくても死ねない苦痛に苛まれている事もある。
穴に落ちない安全地帯にいる人が、正義を振りかざして非難出来る事では無いと思う。
安楽死が選択出来ると良いのにと思います。
60点
映画評価:60点
ずーんと、、
心が重くなりました。
人を殺すという事を
正当化する作品は数々ありますが、
そのどれもが幼稚で自分勝手な言い分が多かったし、全うな事を言われても
殺人を正当化できる訳がないと思っていました。
でも斯波の事は、
少し理解してしまいました。
安楽死が認められていない日本において、
老人と家族が目指せるのは互いに我慢する事のみ
その苦痛や苦労に
国が他人事を決め込む。
これはどこにでもある悩み。
幸い、私はまだ体験していないが
いずれはその順番が回ってくる。
温も愛もあるから、我慢は出来る。
だけど、苦しさが無くなる訳ではない。
時間も、体力も、精神も、金銭も無くなっていく。
本当に、本当に、辛い戦いだと思う。
命の終わりを選ぶ事は悪なのだろうか…?
だからといって、
斯波のやった事は正しい事ではない。
家族からの依頼があって初めて
闇安楽死として正当化されるのかもしれない
救われた人もいるだろうが、
今回の件もただの殺人です。
裁かれるべきだし、許せる事ではない。
だけど国が無責任なのは伝わった。
そういった、どうする事も出来ない事に切り込んだ勇気のある作品でした。
【2025.2.14観賞】
彼はなぜ42人を殺したのか
感想
松山ケンイチ、長澤まさみ、初共演の二人が入魂の演技で激突する社会派エンターテイメント。
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」、「そして、バトンは渡された」の前田哲監督が映画化。
殺人犯VS検事 運命の激突ー。
自分はまだ安全地帯にいる側ですが穴の底を這う側を考えると観ていて苦しく辛かったです。
高齢化社会、介護を巡る事件と考えさせられる社会問題です。
綺麗事や正論では解決できない難しい問題です。
家族は絆にもなるし呪縛にもなる。
喪失の介護、ロストケアの斯波宗典は殺人者なのか救済者なのか…
個人的にはちょっと斯波肯定派です笑
松山ケンイチと長澤まさみのお互いの正義をかけた激突は見どころかと思います。
柄本明の脳梗塞で身体が不自由&認知症の演技は印象的すぎました。
※人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい マタイによる福音書7章12節
斯波「これはもう人間の生活じゃない」!!
自然な台詞読みと丁寧なストーリー展開で、出だしから没入し易かったです。誰にでも当てはまる、現代日本の難しいテーマ(斯波の言う社会の「穴」の存在)を見事に映画にしていました。斯波が知的で冷静な人物で好みでした。認知症と怪我で寝たきりになったお父さんが、「殺してくれ」と言うシーンで泣きました。まあ私もそうなのですが、大友が自分も父を見殺しにしたと振り返るのも良かったです。長年に渡り親が良い関係作りを放棄した場合、子が進んで面倒を見ると言う事は無いと思います。何かイイハナシダナーで終わりますが(2002年の「サイレントヒル2 最期の詩」もこのような終わり方でした)、判決はどうなったのでしょうか。どうぞ冷酷な現実を突き付けて下さい。煙草を2本直接食べると死ぬらしいので、注射器は不要だと思います。
泣ける、そして考えさせられる
喪失の介護
優秀な介護士が喪失の介護で人々を救う話
ケアセンター職員が盗みに入って死んでいた事件から介護士と検事のやり取りを通し殺人か救いかを問う。検事が被告に自分の罪を語り互いに共感END。
安全地帯から語る人間と穴に落ちた人間の違いから本当の正しさを問いかけている。
やまゆり園事件が思い浮かぶが、京都伏見介護殺人事件から影響を受けている。
本当の犯人は?
いつものように、予備知識ゼロで観られてラッキーでした。介護の話ということも知らなかったので、冒頭から「え、どういう話?」というところからぐいぐい興味をそそられました。まさに介護に奮闘中という個人的状況も相まって、登場人物らに共感しまくりでした。ミステリー仕立てということもあり、見せる順番がなかなか素晴らしかったと思います。意外と早い段階で「犯人」が明らかになって拍子抜けしましたが、そこから先が見所であり、今作の強い思いが強烈にほとばしっていて、心を揺さぶられました。本当の犯人は誰なのか、社会に突きつけられたように感じました。松山ケンイチ、長澤まさみの名演技、流石でした!エンドロールで前田哲監督だと知って、そこも知らずに観ていたので嬉しかったです。作品によって多少好みの違いはありますが、「極道めし」(11)、「老後の資金がありません!」(21)、「そして、バトンは渡された」(21)などと共に、今作も大好きな前田作品となりました。
誰かを救う事は自分を救う事と同義
深夜の鑑賞は‥
2025年の幕開けを『あんのこと』で飾ってしまったことを後悔したのも束の間、お正月気分も抜け日常に戻って週末のお楽しみ、(最近とんと映画館に足を運べてないため)日付が変わってからAmazon primeで前から観たかったこの作品に臨みました‥が、またやってしまいました!
二作品とも素晴らしい映画であることは全く間違いないのですが、やはり観る時間帯は重要ですね!?重い気持ちでこれを書いています。
まず大友検事(長澤まさみさん)がお母さんに頭をよしよしされたあたりから伏線回収のエンディングまで涙腺崩壊でした。
毅然とした安全地帯の検事さんがある意味殺人鬼(?)である斯波(松山ケンイチさん)に論破されて珍しく感情的になった理由も回収してましたし、判決後と思われる面会室で大友の告白(懺悔?)に斯波が涙するあたりも二人の抱えていた重いものに納得させられました。
私ごとですか母は60代半ばで父も70代半ばも他界し介護の経験はないのですが入院中、痴呆が見られ始めた直後、あっさり亡くなったしまった父には哀しい半面、心の深いところでは少しホッとしてしまっていたような気がしてなりません。
また離婚してもかつての連れ合いを想う大友の母親(藤田弓子さん)の気持ちもよくわかります。結婚当初から仲の良かった友人夫婦がちょっとしたすれ違いから離婚してしまったのち元旦那さんの方が仕事先で急に亡くなり、その知らせを聞いて愕然としていた彼女を目の当たりにしたこともありましたので。
それにしても松山ケンイチさん、長澤まさみさんの素晴らしい演技には圧倒されましたし、いつも一癖も二癖もある柄本明さんにもやられましたね。淡々と進む話の流れの中表情で多くを語る長澤まさみさんには「ただのダー子やスオミではないな」っていつもながら感心してしまいました。「出た〜クボタ〜!」のCMでは新年から帰国されてホッとしています。松山ケンイチさんも『NANA』で初めて見て『DETH NOTE 』では「なんだかわからない若者だな」って思ってましたが、今や様々な役どころを演じ分けられる素敵な役者さんになられて小雪さん同様お父さんは嬉しい限りです。(誰のお父さん?)
現代社会の直面している重い課題に切り込んだ作品ですが遺族の二人、戸田菜穂さんと坂井真紀さんのそれぞれの対比がこの課題の難しさを物語ってました。
ドクターデスは未見ですが尊厳死・安楽死で戦うドクターキリコ(斯波)とブラックジャック(大友)のようにも見えてきました。
いつ自分たちも安全地帯から穴に落ちてしまうかもしれないこと、考えさせられますし、大友が語る「見えるものと見えないものではなく、見たいものと見たくないもの」は真実ですね!見たくないものをあえて見ようとするようにしなければと思った次第です。考えさせられるいい映画でした。
※でも深夜に観ることおすすめできる作品ではないこと、やはり間違いありませんでした!
見て見ぬふりはもう出来ない。
とても面白かった。
はじめに斯波と言う男が
いかに素晴らしい介護士かを描き、
謎解きはそこそこに一気に問題提起まで持って行く
脚本が素晴らしかった。
斯波がやった事は本当に悪ですか?
と言うことをこれでもかと見せてくる。
これはじゃあ嘱託殺人は良し、安楽死は良し
と言う事ではなく、
安心出来るところからただ見てるだけでなく、
この問題をじゃあどう解決しますか?
と言うものであって、
ラストももう少し先を見せてくれ
解決してくれと思ったけど、
ここで終わらせると言う事は、
各々ちゃんと考えないといけないよ?
と言う事だと思いました。
このままだと斯波がやった事は
良い事のように思ってしまう。
だけど絶対間違ってるはずだから。
社会のシステムを変える事は容易ではないけど、
自分の親と自分に介護が必要となった時に
どうするのかが正しいのか、
家族と共に考えないといけない。
私が原作に惹かれすぎていました
公開時に二度観に行ったが今回は家で。
公開前、原作本の厚さにかなり内容がカットされると思い読了。それから予告を観て「えっ!」となってしまった。検事が長澤まさみに、男性から女性になったのは全く抵抗を感じなかったが、原作では最後に松山ケンイチが演じた斯波が犯人と分かる。それまで全く考えていなかったので読んだ時は「えええっ!」となったものだ。これは私の読み込みが浅いとも言えるが。
斯波が犯人と最初から分かる物語にどう再構築するのか。と、映画を観に行ったがどうしても原作と違う組み立てに混乱していた。
そして考えてしまったのが斯波の父としての柄本明の起用。すごすぎた。私の感覚だがW主役の二人を圧倒してしまった。それが検事の母と犯人の父の介護の差をより印象的にするが、演技の見事さにいつまでも斯波の父の姿が頭から離れてくれなかった。その結果他の話が薄く感じられてしまった。
そして映画冒頭で「刑務所に入れて」と頼む老婆。少しコミカル的で長澤まさみの顔にも苦笑が浮かぶ。しかし原作でははっきりと社会問題と扱う。映画未登場だが弱い者を食い物にする人物も登場する。
確かにこの映画は他人事ではない介護問題を扱う。しかし柄本明の名演に全て持っていかれたという印象を捨てることができない。そしてラストの二人の面会。検事が死刑囚に救いを求めている? そう見えてしまう。
原作があると映画公開前に読むのはカットされる部分を脳内補完したいのと、映画と原作の違いを楽しんでいるつもりだ。原作主義ではないと思っている。だがこの作品は原作に軍配を上げたい。
付け足しになるが斯波が怪しいと分析される方法も原作ではページを使っていて面白い。
生きてるのに
介護の辛い現実を世の中は、まだまだ知らない事の方が多いと思う。僕自身が実際に介護に関わる事がほとんどないからです。
認知症の方を見ると少しだけ、家族の方が大変で気の毒だなって思う反面、家族なんだから当然の義務でしょう!と押し付けてしまっている部分もあります。
自分の家族が自分の事を認知出来なくなっても自分が同じように考える事が出来るのか?
今の自分が一ミリも想像が及ばなく、自分の浅はかさを思い知らせる気がしました。
生きているのにこれほどまでに辛い現実ならいっそのこと殺してしまえばいいんじゃないの?と悪魔の囁きにも自分は、思っているよりも簡単に転がってしまうかもしれない。
社会という歯車の中で見えてない部分にこそ、スポットライトを当てていかないといけない現実がある事を改めて感じました。
誰かを救いたいと安易に考えて、その人に手を伸ばした所でどれだけの力になるか分からない。
見たいものばかりではなく、知らないといけない事を常々に増えていくばかりなんだと考えさせられる作品でした。
穴
安楽死の是非
今作は安楽死をテーマにしている。当然のことながら、問題は認知症などの症状が甚だしい人々に対する介護の負担を、家族などの当事者に全て押し付けていることだ。問題を解決するには、そういった介護の負担の大きい人々を受け入れる体制の拡充が考えられる。しかし、それができるなら既に実施されている。実際には介護業界の人手不足や財源の捻出の問題からできないとなると、やはり安楽死を制度化する必要があるんじゃないだろうか。
そもそも、今作に出てくるような認知症の進行が甚だしい人々も、正常な判断力を持っていた頃ならば、自分の尊厳が傷つくような状態になってまで生きたいとは思わないのが多数派だろう。プライドは無くなっていないわけで、だとすれば、やはり人としての尊厳を保ったまま人生を終えられた方がいいんじゃないだろうか。検事が犯人の行動は身勝手な正義と言っていたが、それは自分が介護に携わらなくて済む人間の綺麗事にしか聞こえない。以上の点から、真犯人の行動は法律に反しているとはいえ共感できるものだった。
ストーリーの構成は、真犯人が明らかになった辺りから、やや冗長になってくる印象を受けた。検事の父の孤独死のエピソードも、彼女の心境の変化を描きたかったのだろうが、入れる必要があったのか疑問だった。しかし全体としては良い映画だった。
「考えさせられる」は、必ずしも「良い作品」を意味しない
「泣ける」は、必ずしも良い作品を意味するわけではない。
それと同じで、「考えさせられる」からといって良い作品ではない。
そんなことを感じた作品だった。
親の最期は、ポックリであってほしい。
これは辛く厳しい介護をしている限界状態の子どもだけなく、いずれ訪れる親の老後にそこはかとない不安を抱える人にも共通の想いかもしれない。
親側も、子どもに手間をかけずポックリ死ぬことが理想だと考える人が多いだろう。
介護に疲れ果てた末の親殺しや無理心中が同情をもって語られがちなのも、介護の苦労が容易に想像できるからだ。
そういう意味で、この映画はとても考えさせられる。
松山ケンイチ、長澤まさみ、柄本明、鈴鹿央士、藤田弓子らの俳優陣も素晴らしく、登場人物たちの苦悩は胸に迫る。
しかし、制作側のスタンスは最後までわからない。
それぞれに事情があり、それぞれの正義がある。
という、映画を見る前から自明のことが再確認できるだけだ。
最終的な答えを観る人に委ねる映画が嫌いなわけではない。
しかしこの映画は観る人に委ねすぎて、逃げているように感じてしまった。
考えさせられる映画ではあるが、考えたいだけならこの映画のあらすじをを読むだけでいい。
とにかく辛い
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