「生きる自由と死ねる自由」ロストケア 💲さんの映画レビュー(感想・評価)
生きる自由と死ねる自由
安全地帯、他人事、自己責任、孤独死、見て見ぬふり。映画の中に出てきた言葉を並べると日本の国民性そのものを表している。現代ではそれらがニュースや週刊誌などで取り上げられて表面化してきたけど、実態はもっと昔から問題視されていたに違いない。作品は介護を通して生死について表現していて《ぁあ、将来の自分だな》と虚しさと絶望さえ覚える。映画に登場する弁護士の母は軽度の認知症を患いながらも悠々自適に広々と清潔感があり、心にも余裕がありそうな介護士スタッフに支えられながら暮らしている。一方、田舎暮らしの主人公の父は狭い古びたアパートで重度の認知症があり、室内で腰を痛めて寝たきり。父の介護をしつつアルバイトと父の年金でなんとか生活をやりくりしていたが、介護の方が煩雑化していき、とうとうアルバイトまで辞めざる終えなくなり生活保護を受けようにも門前払いされる。主人公の父は自身のせいで苦しんでいる息子と自身のやるせない姿に耐えかね、「俺を殺してくれ」と頼む。頼まれた息子は自ら編み出したニコチン注射を父親の左腕にうつ。
映画の中で出てきた言葉も含めて思ったのは日本人は生きる事ばかりに光を向けていて、死については影ばかり観ている。ただ、"ふつう"に暮らしていくのも手一杯で生き地獄さえあるのに、押し付けるのように生きる事だけに拘り過ぎている。生きる事が立派な選択肢なら死も立派な選択肢にしないと世の中どんどんオカシクなるのは当たり前。世間で起きている事件で結果的に殺人になってしまった、自殺してしまった事に対して、非難するのは誤り。昔も今も日本人は起きた出来事に対して結果論だけに目を向けて経緯を知ろうとしない。本作も日本社会をよく描いているなあと思いました。