「何が「ロストケア」だよ」ロストケア ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
何が「ロストケア」だよ
松山ケンイチ演じる斯波(しば)が、妙に落ち着き払い、説得力をもって殺人の正当性を訴えてくるので、皆だまされて、同情や共感に少し傾き過ぎているのではないかと感じました。
自分のした行為に「ロストケア」などと格好よさげな名前を付けているのが醜悪きわまりないです。
勝手な思想と言い分で人を殺しておいて何を言っているのか…。
最初は大友(長澤まさみ)検事も怒りをあらわにしていましたが、だんだんと斯波に言いくるめられていき、最後には自身の打ち明け話をして涙を流すありさま。違和感がありました。
事件に至る心理を深堀りするあまり、42人殺害の証拠は? すぐに死刑判決? 自白が早すぎるのでは?など数々の疑問は解き明かされないままでした。
斯波は、父親を殺してから老人介護職に就きます。これは当初から、老人たちを殺害していく計画の上だったことが推測できます。
殺した父親に対する罪悪感や罪滅ぼしの意味があるのかもしれないと一瞬思いましたが、そんな奥深さは見受けられませんでした。(淡々と殺人を続けていたため)
全体的に、斯波に優しい物語になっていて、情状酌量の余地ありと考えている鑑賞者もいます。
さらには実際に安楽死できたらいいとか、老人は集団自決すればいいという成田悠輔のような人も世の中にはいます。
本来口もはばかられるようなことを平気で言えるような、なんだかおかしな時代になってきたと感じます。
ただ、主演二人の演技は本当に素晴らしくて、特に松山ケンイチってこんなに上手かったっけ…と思うほどでした。
実際の連続殺人鬼であれば、表情や言葉の端々に異常性が垣間見えるはずですが、普通に演じていたようですね。
それが良かったのかどうなのか…今の段階ではよくわかりません。
老人だろうがなんだろうが、大量殺人犯がこんなに普通のわけないだろうという気もします。
かたや長澤まさみは、いつ見てもいつもの長澤まさみという感じでしたが、シリアスな役の方が私は好きです。
でもどうしていつも髪型が同じなんでしょうね。たまにはロングヘアが見たいなと思いました。
あと、柄本明の演技がちよっと生々し過ぎて、やり過ぎではないかと訳もなくヒヤヒヤしました(笑)
他の役者さんたちも皆さんとても良かったですね。
重いテーマの映画でしたが、こんなことが容認される時代にならないことを切に望みます。