「重い問いかけ」ロストケア 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
重い問いかけ
原作者・葉間中顕が「ロストケア」を刊行したのが
2013年2月です。
何故この事を書くかと言うと、
相模原障害者施設殺傷事件は、その後の2016年7月で、
葉間中顕さんが「ロストケア」を書く後で相模原の事件は
起きているのです。
私が思ったのは、葉間中顕さんのオリジナル作品で、
相模原事件になんのヒントも得ていない。
その事でなんかホッとしています。
(あの事件は違った意味で特殊、ですから・・・)
原作では大友検事は男性で映画では長澤まさみが演じてるように、
女性に変えられています。
脚本は監督の前田哲と龍居由香里。
この映画の最も優れたシーンは、ラストで、
検事の大友秀実(長澤まさみ)が、
拘置所の斬波(松山ケンイチ)に会いに行き、
驚くべき告白をするシーン。
法の番人である検事の秀実が、父親の20年ぶりの電話と
ショートメールのコンタクトを全く無視して見殺しにしていた事実。
ここで最初の孤独死して2ヶ月後に発見される独居老人の遺体が
大友検事の父親だったシーンと、結びつくのです。
20年、音信不通の父親の電話を無視する・・・そんな事が
出来るのが人間なのですね。
一方で私の友人は、突然連絡してきた父親を受け止めました。
心臓手術を受けるための入院の保証人が必要だったのです。
友人はショックを受けましたが、遠方の病院に通い
付き添って看病をしました。(その後は知りません)
この映画では長澤まさみの一点のシミもシワもない、
完璧なまでの美しさに目を奪われました。
そして殺人犯の松山ケンイチもまた澄んだ
摩周湖のような透明感と清廉な美しさです。
そして脚本も推敲を重ねられ、実に素晴らしく
なんの破綻もなく辻褄が合います。
八賀デイケアセンターの介護士として、末期の認知症などで、
家族を追い詰める《老親》を、まるで家族の意を汲むように
41人も殺めた斬波宗典。
そして最初の一人実の父親(柄本明)を加えると42人になる
《神の代わりに殺めました》《正しい事をした》
長澤まさみの完全無欠な美しさと存在感。
「僕の殺人は救済です」と信じて一点の曇りもない
松山ケンイチの斬波。
ラストで斬波も大友も心が大きく乱れます。
「私が手を差し伸べていたら、父親は生きていた・・・」
泣き崩れる大友。
斬波は父親を手に掛けた後で、折り鶴を開くてと、
たどたどしい字で書かれた父親の感謝の言葉。
「むねのりの、こどもで、しあわせだった」
2人が唯一、素顔を見せた瞬間です。
みんな多かれ少なかれ大友のように、親を見捨てて、
姥捨をして、あの世への引導を渡しているのかも
知れません。
アメリカで「死の医師」と呼ばれて130人を安楽死させた
医師は、殺人犯と非難される一方で、末期患者の尊厳死を
可能にさせた功績もあるとの見方も。
日本映画「ドクター・デスの遺産BLACK FILE」で、
柄本明は「ドクター・デス」を演じていた気がします。
日本の介護保険も始まって23年。
人手不足は深刻で、このままでは5年持たないとの声も
聞きます。
「人生100年時代」などと言いますが、
大いなる幻想ですね。
死ぬ時は家族に迷惑をかけたくないですし、
プライドもあるし、・・・難しい、
本当に難しすぎる「死ぬ事」
そして、
一つだけ、惜しいのは、凄惨な話なのに生活感が薄い・・・
これは長澤まさみの完全無欠な美しさのせいかも・・・ですね。
琥珀糖さんの優しさが現れたレビューですね。20年音信不通の父親の電話に、琥珀糖さんなら迷わず出るんですね。ご友人も、優しい方ですね。
私の父は心の問題で、晩年は家族の事に全く頭が働かなかった人でしたが、私達が子供の頃は父親らしい事をしようと頑張ってくれたので感謝しています。
大友は、父親が20年ぶりに連絡してきたことで、死期が近いのかも、と予想できたと思います。私が大友の立場だったら、電話に出るだろうかと考えました。もし出ないとしたら、後で後悔する事も覚悟の上で出ないと思うので、多分被告に泣き言は言わないと思います。と書いてはみたものの、覚悟の上とも限りませんね。ずるずる先延ばしにしているうちに、手遅れになってしまった、という事もありますね。人の気持ちは揺れ動いてばかり。
琥珀さん
おはようございます。
コメントへの返信を頂き有難うございます。
主演お二人の悲しみに満ちた瞳が印象的な作品でした。
良い死に際を迎えたいと誰もが願う事だと思いますが、抱える事情や感情がそれぞれに異なるので、本当に難しい問題ですよね。
琥珀糖さん
自身が何者であるか分からなくなって尚、生きていたくない、それが本音です。法整備がなされたら良いのに、と本気で思っていたりもします。
親や子供、となると必ずしもそうとは思えない難しさはありますが。