劇場公開日 2023年3月24日

「喪失の介護とは」ロストケア ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0喪失の介護とは

2023年5月10日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

介護保険制度はいつから始まったのか、調べてみたら2000年4月だった。一人暮らしの高齢者、高齢者のみの世帯、認知症高齢者など介護を必要としている人が増えてきて社会問題として騒がれてきたのはそのころだったのかと今更ながら認識した。
介護福祉士という国家資格は1987年から存在するようなので、2000年というのはこの映画の舞台となっている訪問介護センターのような介護ビジネスが興隆していく節目となった年だろう。そして、それから20年以上経った今、高齢化率はますます加速化して、介護ビジネスも年々市場規模を拡大している。もはや介護問題は国民一人一人誰にとっても他人事ではなくなったといえる。
「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と予言者である。」
(マタイによる福音書)
これは介護士が信条としている言葉であろうことは想像できるが、営業系の仕事に携わっている私でさえも戒めにしている有名な聖書の一節なので、まさか人を殺す動機の言葉になるとは思ってもみなかった。
「殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。」「僕がやったことは介護です。」「喪失の介護、ロスト・ケアです。」
介護で苦しむのは、介護される本人とその家族である。認知症の場合、本人は一時的に症状が落ち着いた時に、自分自身への怒りと嘆きを吐露する一方、家族は症状が進みだんだんと壊れていく父や母を見るのがつらくなる。介護現場はこれ以上どう頑張って何をすれば正解なのかわからないという状況に追い込まれる。
「絆は呪縛であり、誰も救うことができない呪縛から助けるのが、自分に与えられた役割だ。」
自分の父や母には、明らかに家族の「絆」があり、それは決して切れるものではない。斯波はその呪縛から家族を解放するために行動を起こしたと主張する。
斯波の起こした行動を正しく審判できる人間はいないと思うが、介護される人を尊厳のあるうちに見送り、家族をその絆が理解できるうちに見送らせたとはいえるかもしれない。

ミカエル