「さもありなん」ロストケア 落ち穂さんの映画レビュー(感想・評価)
さもありなん
話はシンプルで、介護士の男が認知症の高齢者を何十人も殺したというものです。
認知症患者を殺した当人は全く悪くないと思っているところは、相模原障害者施設内殺人事件の犯人が、意思疎通ができない者は生きていても仕方ないので殺した、自分は悪いと思っていないというようなことを言っていたのと、本質的には同じように思います。
しかし、実際のところ、暴力・妄言・糞尿に塗れる・徘徊等、認知症が原因で日々起きる出来事への対応に疲れ、暴力を奮ってしまって後悔したり、介護で時間を取られ生活もままならなくなったりと、体力的にも精神的にも経済的にも追い詰められたら、弱い自分は早くこの状況から抜け出したいと思い、この介護士の存在を願うかもしれません。
この映画の検事のように、親が自力で入居した高級老人ホームに月に一度好物を持参しているだけの人間に、正論吐かれたらウンザリしますね。
だから、犯人がこの検事にペラペラ説明してたのには驚きました。益々、植松と近い気が。
検事の正義感面にもいい加減飽きてきたところ、映画の最後のほうで、自分に会いたがる父親を無視していたら独居死していたという後悔があったことがわかります。その自分への責めを介護士に行っていた?いや、待てよ、20年も会っていないなら携帯番号もやり取りしてないはず。長い間会っていないというのは嘘で、実は検事も父親を自然死に見せかけて殺していたとか?…と深読みしましたが、そのままエンドになってしまいました。つまらないぞ。
どうせなら、殺された人は全員、家族に迷惑にかけたくないと介護士に依頼した人だった、つまり全員嘱託殺人だったとかいう話だったら、介護される者の気持ちに重きが置かれたかなり感慨深い話になった気がします。そこにさもありなんの綺麗な曲が聞こえてくると泣けます。そして、そうだとしても介護していた家族が犯人を罵るというシーンであったなら、更に深みを増すのになと思いました。
蛇足ですが、身近に、映画の状況そっくりな、小学生の子供がいながら認知症の姑を9年間看続けきった女性がいます。
「後悔なく精一杯親を介護したと、自分自身に言えるか?って話よ」
その通りだなと思っています。