「単なる復讐劇になってしまった。」ロストケア ゆうきさんの映画レビュー(感想・評価)
単なる復讐劇になってしまった。
まずは私は福祉業界が長い医療者なので、デイサービスや施設、訪問などにも携わっていたことがある。この映画のキャッチフレーズである”自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であるという主張”について。ここが今回の映画で知りたかった重要な点。だけど斯波(松山ケンイチ)における「救い」と述べる点については説得力があまりになさすぎた。これでは救いではなく単なる復讐劇。国の問題、生活に困窮して苦しく追い詰められた挙句に父親を殺してしまったことへの単なる正当化。
そこら辺り…現実にはこういう事件を起こした人がいる中で、ぜひ映画ではここをもう少し偶像化してほしかったん。せっかく聖書の言葉までエピソードに挙げたんだからもったいない。
斯波の人物像がぼやけてしまったせいか、松山ケンイチさんも演じるにあたって残酷なのか、いい人なのか、その狭間をどうやって演じたらいいのか迷っているようにも見えました。元々人柄的にイイ人だしね。ちょっとこの役難しそうに見えた。
流浪の月で松坂桃李さんが最後まで役が掴めなかった、という発言を言われていたのを聞いて本当にそうだな、と思ったのです。人物像が中途半端だと役者さんも自分の中の役を作り上げられないと思うから。
その中で次のアカデミー賞候補になるんじゃないか、と思えるほどの演技をされたのは柄本明さん。麻痺もリアル。虐待をされたあとの表情なども涙を誘う。
この映画を観た時は平日で満員。ほとんどが中高年以上の方々で私の両隣の方も嗚咽をもらすほど泣いていたのはやはり柄本さんのシーン。
老年期に思うように体が動かなくなった時、家族に迷惑をかけることを想像して胸を痛める方もいた。それくらい重い題材だったしメッセージ性も強くなるのが当然のような作品。映像化するまで何年も時間をかけたそうですが、私は現場人間なもので、もう少し斯波に肩入れできるような(現実ではしちゃいけないんだけど)作品を期待していたので到達できなかったのが残念。私の中ではPLAN75の方がリアリティがあった。