劇場公開日 2023年3月24日

「鏡と十字架」ロストケア AMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0鏡と十字架

2023年3月29日
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前田哲監督。あまり意識してなかったのだけど、いいですね。「陽気なギャングが地球を回す」「こんな夜更けにバナナかよ」「そして、バトンは渡された」など、気がつけば結構観てました。社会課題を絡めたテーマを入れてさらりと、時にはコミカルに描いて、エンタメとして成立させていて、すんなり内容が入ってくるのが心地よい。
今回は一転、高齢者介護の課題をシリアスなトーンで深掘りして、見事にまとめ上げた。介護の重荷にさらされた家族は、要介護者の死により救われるのか。正面からこの問いに取り組んでいて、観ていて複雑な感情が駆け巡る。
松山ケンイチと長澤まさみの二人は、十年来の推し俳優。その二人が初共演で、水と油の対話劇を見せるのだから、それだけで感涙ものだ。検事室での戦いは、両者譲らず、お見事! 狂信的だが、冷静な連続殺人者である斯波(松山ケンイチ)と、斬波の悪を断罪しようと詰める検事の大友(長澤まさみ)。それぞれの過去が絡みながら、事件の本質が見えて来る展開。
まあ、見せ方として、舌戦手に汗握る、という感じではないのだけど、印象的な画面が展開されて、じっくりと物語が、展開されていく。その中で、特に2つの構成が印象に残った。
1つ目は鏡や鏡面など。磨かれたテーブルに映る大友の姿と実像の大友が、表面と内面の相反を感じさせたり、4つの鏡に映し出された大友が、そこから不穏な空気を暗示していたりと、強く記憶に残る。
2つ目が十字架。タイトルの赤い十字架が何を暗示しているのか気になったが、終盤の斬波の部屋で佇む大友から引いて壁に、窓の影として映る十字架。膝の上で泣き崩れる大友の母が首から下げている小さな十字架。
この鏡と十字架が、本音と建前や揺れる正義など、全体のテーマを伝えるモチーフとして、物語に芯を与えていたように感じた。
「沈黙」などのキリスト教の正義への問いや「PLAN75」で提示された死の選択に追い立てられる社会など、考えさせられる作品たちと同様、何度も描かれてきたテーマではあるものの、タブーとされがちな死と救い(幸せ)に対する考え方について、相対する機会を与えてくれる良い作品だ。

AMaclean