「白と黒とで描かれる水墨画の世界。それを描く事に生きる意味を見いだした男の、人生再出発の物語です。」線は、僕を描く もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
白と黒とで描かれる水墨画の世界。それを描く事に生きる意味を見いだした男の、人生再出発の物語です。
墨と水。 それだけで描かれた絵が
ときに深遠幽玄な世界をも描き出す。
水墨画って惹かれるものを感じます。 うん。
その水墨画の世界を題材に
どんなお話が描かれるのか気になり鑑賞です。
寺の境内に並べられた多数の水墨画。
その中の1枚を見て涙を流す男・青山霜介 (=横浜流星)。
彼は 展示会を手伝いに来た大学生。
絵を描く実演の場。
描くのは巨匠・篠田湖山(=三浦友和)。
先程、霜介に値段の高い方の弁当をくれた人。
実演開始。
そして描き上がる作品。
湖山先生が、舞台側の霜介に近づき声をかける。
「君、ぼくの弟子にならないか?」
突然の事にとまどい、固辞する霜介。 結局
水墨画スクールの生徒として師事することになる。
そして訪ねた湖山先生の家。
湖山先生に言われるまま
ひたすら墨を磨り そして
紙の上に線を引く。 1本、また1本。
先生の手本を見ながら 時間を忘れて何枚も。
描き終えて道具の片づけをしようと
洗い場を探す霜介。
奥の部屋で、一人の少女が筆を握っていた。
その筆使いと所作を見つめる霜介。 と
「誰?」
人の気配に気付いた少女が、声をあげた。
この少女が篠田千瑛(=清原果耶)。
湖山先生の孫であり、弟子でもある。
道具のことなどを霜介に教えてあげるよう
湖山先生に言われる千瑛。
「なぜ私が…」
といいながらも色々と教えてくれる。 いい子だ。
この三人に加えて
・湖山先生の住み込み弟子の西濱(=江口洋介)
(雑用兼まかない担当 と思わせといて…)
・霜介の友人二人
軽い感じの男・古前匠(=.細田彼央太)
↑の彼女(?)・川岸美嘉(=河合優実)
といった登場人物が
大事なところで話に関わってきます。
この作品の主人公(霜介)
過去 (3年前) にあった悲しい出来事によって
家族(両親・妹)を失っていて
「ただなんとなく」毎日を過ごしてしまっていた。
それが、
水墨画と出会い
そして湖山先生や千瑛たちと出会い
それを通じて
再び生きる意味を見いだしていく。
そんなお話です。
◇
AIが絵を描く。そんな時代になってきました。
この作品で描かれるのは、その対極。
人が筆を使って紙の上に紡ぎだす
白と黒のモノクロームの世界。
白い紙の、どこにどんな線を描くのか
人が考え、感じるままに筆を走らせる。
描かれた線は、一本として同じモノにはならない。
それでいて、同じ人の描く線は どこか似ている。
それが、筆致というものなのだろうか。
まさに 「人のなせる業」 。
技術も必要。
白い紙の上に、どんな線を引きたいのか。
どんな世界を描きたいのか。
自分で考え、自分で決め、そして描く。
それが、何よりも大事。 …たぶん。
話の起伏が、筆で描かれた線のように
なだらかで滑らかなお話です。
じんわりと
良かったと心に感じられる作品でした。
自分でも 「竹」 の絵を描いてみたくなりました。
うん 観て良かった。
◇ あれこれ
四君子
梅・欄・菊・竹 の四種類と知りました。
この題材が上手く描ければ
水墨画を描く上で必要な技術がある ということらしい。
※麻雀牌の「花牌」の図柄がこの四種ということを
調べて初めて知りました。 へぇ そうなんだ。
三浦友和
巨匠の役者が誰だか分からず
最後にテロップで確認。
…で 三浦友和。
あぁそうか、と納得。
いい歳の取り方をしてきたのでしょう。
こういう爺さん役の年齢なんだとしみじみ。
富田靖子
割と最近、床屋さんで見かけました(「向田理髪店」)が
今作では水墨画壇の重鎮として登場。
厭味なばあさん役かと思ったら 違ってました (…ゴメンなさい)
※個人的には理髪店の奥さん役の方が好きかも
江口洋介
陰の主役はこの方です はい。
巨匠の弟子は、巨匠でした。
良いところを持って行きました。
「アキラとあきら」 のカタブツ部長役も良かったし
このところ色々と好演&熱演です。
※ あれだけ料理が上手ということは
ずっと独身なのでしょうか… (余計なお世話)
◇ 最後に
洪水に見舞われた霜介の実家の跡を
霜介と千瑛が訪ねる。
家族が暮らしていた痕跡を探す二人。
千瑛がそこで見つけたのが
「椿の花」 そして 「背比べを刻んだ柱」
「椿」 のことは霜介に伝えた。
「背比べを刻んだ柱」 の事は 伝えなかった。
霜介に関わりがある物と 気付かなかったのか。
それとも、
霜介の心の重荷にならぬよう 知らせなかったのか。
どっちなのだろうか
と、観終えた今も考えています。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
今晩は。
今作は、作品の品性や水墨画に魅入られた人たちの姿が良くて、とても好きな作品です。
学生時代に中国を放浪していた頃に桂林で出会った水墨画や、端渓の硯などもキチンと小道具としてセットされていましたし、何しろ畳三畳はある和紙に大筆、小筆を使って山水画を描く数シーンは魅入られましたね。最近、佳き邦画が多数公開されていますが、今作はその中でもベスト3に入る作品だと個人的には思っています。では。返信は不要ですよ。