「臓器売買の是非」バニシング 未解決事件 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
臓器売買の是非
本作品のオルガ・キュリレンコは、映画「Les traducteurs」(邦題「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」)のときのバッチリメイクと打って変わって、薄化粧で登場する。とはいえ、相当の美人であることに変わりはない。ウクライナ出身で、ウクライナ語とロシア語の他に、フランス語と英語とスペイン語とイタリア語が喋れる。
韓国映画だが、シーンの多くが英語とフランス語で進められる。言語が違うと、ソウルの街が違って見えるのが不思議だ。ハングルの喧騒がエキゾチズムに変化するようである。
原題は英語のVanishing(失踪)で、大人でも子供でも誘拐して臓器を取り出して売買を行なう秘密組織があるという設定になっている。臓器の提供を受けるのは一部の金持ちや支配層だ。主人公の警察官は、オルガ・キュリレンコ演じる医師から失踪者が殺された目的を告げられ、秘密組織に迫ろうとする。このあたりのシーンはスピード感があって、興味深く鑑賞できた。面白い作品だと思う。
医学が臓器移植という神をも恐れぬ禁断の所業を発明したのと時を同じくして、臓器売買がはじまったのではないかと、推測している。そして日本でも臓器売買は実際に行なわれているのではないかと当方は疑っている。警察庁発表のデータによると日本の行方不明者は次のようである。
行方不明者の数 年間80,000人
9歳以下の数 年間1,200人
10代の数 年間16,000人
誘拐事件 年間300件(300人)
内20歳未満 年間200件(200人)
大人の行方不明は個人的な事情だとして、9歳以下の子供が個人的な事情で失踪する可能性は少ない。1,200人の内の2/3が事故だとしても、残り400人の行方不明の原因がわからない。20歳未満の誘拐が全部9歳以下だとしても、残り200人は行方不明だが、誘拐事件として立件されていないということになる。
誘拐犯から脅迫の電話がかかってきても、無視する親はいると思う。テレビドラマでは半狂乱になる親のシーンばかりだが、そうでない親もいるに違いない。「え?誘拐?うちの子を? あ、そう。それで? 何言ってんだお前、金なんかあるかバカ!」と電話を切ってしまうのだ。そして保護者の義務として行方不明届だけは提出する。見えない誘拐事件だ。
行方不明の子供のほとんどが当日中に保護者のもとに戻ったとしても、確率論的に言えば、戻らないままの子供もいると思う。そこで疑われるのが、臓器売買のためにさらわれた可能性だ。
臓器移植には相性の問題があるから、同じ日本人の臓器を望む人もいるだろう。コイズミからアベシンゾウに至る自公政権で日本はとことん腐敗したから、貧困ビジネスを営むように臓器売買を営む悪人が出現していてもおかしくない。
本作は臓器売買という悪行が実際に横行していることを知らせるとともに、臓器移植の是非について改めて問題を提起したという点で、サスペンス以上の価値があると思う。悪くなかった。